脳卒中リハビリテーション看護
認定看護師:源内 しの
「FAST(ファスト)」というのは、“脳卒中の疑いがあれば、すぐに病院にきてほしい”という願いを込めた言葉です。脳卒中の可能性が高いと考えられる初期症状を示しています。脳卒中は、早く病院に行くことで治療の選択肢が増え、場合によっては症状が緩和されることがあります。「こんな症状なんかで病院に行かなくても・・・」と思って、家で様子を見るケースも多いようですが、早く病院に来て頂いていれば治療ができていたということがあります。
はい、そうです。ご存じの方も多いかとは思いますが、脳卒中には「脳の血管が詰まる脳梗塞」と「脳の血管が破れる“脳内出血”」、「主に脳の太い血管にこぶができてそれが破裂して出血する“くも膜下出血”」があります。
脳卒中は後遺症が残り後に介護が必要になる印象が強いかもしれません。脳卒中を発症した脳の場所によっては重篤な後遺症や意識障害を起こすケースもあります。
「F」はフェイス(Face)の「F」です。日本語で言うと顔ですね。顔のゆがみを見ます。顔の片側、特に口角が下がったり、左右対称ではなくゆがみがあるような症状になります。「イー」としてもらったら左右の動きの違いがわかりやすいと思います。後は、片側から食べ物が落ちたりこぼれたりすることもあります。「FAST(ファスト)」の「F」はフェース、顔のゆがみの「F」だと覚えてください。
「A」はアーム(Arm)の「A」です。腕に片側の麻痺があるかどうかを見ます。両手を胸の高さまでまっすぐ挙げてもらってそこで保持するようにしていただくと、麻痺をしている手は下に落ちてきます。両腕ではなく片側だけに麻痺が起こってくるようであれば、脳卒中の麻痺の可能性があります。日常的には、普段持つことができていた箸や茶碗が持てなくなって気がつくことがあります。「FAST(ファスト)」の「A」は腕の片側の麻痺、アームの「A」なんです。
「FAST」の「S」はスピーチ(Speech)のSです。言葉に障害があるかどうかを見ていきます。ここでは、2つの障害があります。1つ目が「ろれつが回らない」障害、2つ目が「言葉の名前などが出てこない」「思ったことと違った返答をしたりする」といった障害となります。「FAST(ファスト)」の「S」は言葉の障害、スピーチの「S」です。
ここまでお話ししたフェイス(F)、アーム(A)、スピーチ(S)の「FAS」の症状のうち、1つでも症状が出ていれば脳卒中の可能性が高いと言われています。症状が1つだと72%、3つすべてだと85%以上が脳卒中であると言われています。
「FAST」の「T」はタイム(Time)の「T」です。最初にお話したように、脳卒中の症状があれば「すぐに病院に行く」ことが大切です。 脳梗塞であれば、発症から4.5時間以内で条件を満たせば使用できる薬もあります。しかし、4.5時間以内に病院に着けばいいというものではありません。病院に着いてから、検査を行い、診断が終わり、治療が開始となるまで、どんなに早くても60分はかかると思っていただけたらと思います。
そして、もう一つ「T」には大切な意味があります。
治療を開始するためには、「何時に症状が出たか?」ということが重要になってきます。症状が何時に出たかわからない場合は、「何時まで元気だったか?」(普段とかわらなかったか)を病院のスタッフが確認しますので、時間の確認をお願いします。忘れないようにメモを残しておくといいですね。
私たちも、救急隊からの情報を聞いて脳卒中の治療が行えるよう、あらかじめ準備を整えておきます。病院に到着してから、1分1秒でも早く治療を行えるよう全力を尽くしますが、どうしても時間は必要となってきます。ですから、症状が出たら様子を見ず、すぐに専門病院へ行ってください。
岡山市立市民病院では、24時間体制で脳卒中の治療が行えるよう専門医が待機しています。治療も脳梗塞発症後4.5時間以内で条件が満たされれば使用できる薬もありますし、血管内治療や外科的治療など幅広く行える体制をとっています。
脳卒中は時間との戦いですので、“時は脳なり”と私たちは考えています。なので、症状が出たら迷わず救急車を呼ぶか、病院を受診してください。
「FAST(ファスト)」で脳卒中を疑い、早期に専門病院へ行きましょう!