外科で扱う『ヘルニア』というのは、「脱腸(だっちょう」とか「でべそ」と呼ばれ、古くから慣れ親しまれてきた病気です。ヘルニアとは体の組織が正しい位置からはみ出した状態で、お腹のヘルニアはお腹の筋膜や筋肉がゆるみ、そこから腸などの内臓が異動してしまう状態です。「脱腸は子供の病気」というイメージをもたれがちですが、むしろ体の組織が衰えてくる中高年層に多い病気です。
日本全国での年間患者数は30万~40万人程度とされ、肥満化や高齢化に伴い患者数は増加しています。そのうち、年間16万人の方が毎年手術治療を受けています。皆さんがご存知の、虫垂炎、いわゆる盲腸の手術が6~7万人程度ですので、かなり多くの方が、この疾患でお困りになっていることがわかります。それでも、約半数の方は医療機関を受診されていないことになるのですが、その理由としては、「脱腸・でべそといった病気に対する恥ずかしさ」や「どこに相談すればいいか分からない」といったことが挙げられます。
当外来は、多くの方々にヘルニアという疾患について病態・治療の必要性などを広く認識・ご理解していただけるよう啓蒙活動を行っていくこと、腹腔鏡手術など最近の手術・治療方法を導入し、低侵襲な治療を患者様に提供すること、短期入院治療を実践し、患者様がより早く社会復帰をできるようにサポートしていくことを目的としております。
毎週木曜日午後
※上記以外でも対応しますので、お気軽にご相談ください。
「ヘルニア」とは、本来ならお腹の中にあるはずの腹膜や腸の一部が、多くの場合、鼠径部の筋膜・筋肉の間から皮膚の下に出てくる病気で、一般の方には「脱腸(だっちょう)」と呼ばれています。
最初は痛みがなく、入浴中やくしゃみをした時などお腹に力がかかった際におなかの一部が『ぷくっと』膨らむことで気づくケースが多いようです。お子さんの脱腸では成長とともに自然になおることもありますが、大人の場合は、自然に治癒することはありません。そのままにしておくと、どんどん大きくなります。場合によっては膨らみが戻らなくなり、緊急手術や命に関わるような状態になることもあります。
ヘルニアは乳幼児の場合はほとんど先天的なものですが、成人の場合は加齢により身体の組織が弱くなることが原因で、特に40代以上の男性に多く起こる傾向があります。ヘルニアの発生に職業が関係していることが指摘されており、腹圧のかかる製造業や立ち仕事に従事する人に多く見られます。便秘症の人、肥満の人、前立腺肥大の人、咳をよくする人、妊婦も要注意です。
ヘルニア(脱腸)はできる場所によって呼び方が変わります。
ヘルニア(脱腸)のタイプには以下のものがあります。
「鼠径(そけい)」部とは、太もも、もしくは、足のつけねの部分のことをいいます。足のつけねに押すと戻る膨らみを見つけたり、引っ張られるような違和感を感じた場合は、鼠径ヘルニアが疑われます。日常的に重いものを運んだり、立ち仕事などの同じ姿勢を続けてきた人、肥満気味な人、加齢によって体の組織が衰えた中高年層の男性に多いです。
鼠径ヘルニアと同じように加齢などにより筋肉や筋膜が弱くなることや、重たい物を持つなど腹圧がかかりやすい状態が続いたときに起こりやすいです。ただし、鼠径ヘルニアとは違って、こちらは中年以降の女性に多くみられます。特に、出産を多く経験した痩せ型の女性に多いと言われています。
臍(へそ)ヘルニアはへそ周囲が膨らみます。子供の「でべそ」として広く知られておりますが、大人でも、肥満、妊娠などをきっかけに発生することがあります。
おなかの手術を以前に受けたかたが、加齢などが原因で傷跡が弱くなり、脱腸を起こすことがあります。
鼠径ヘルニアはお薬では治すことはできません。手術のみが”治せる”治療です。腹部に隆起を認め、不快な症状がある場合は、ご相談ください。
手術は人工シート(ポリプロピレン製メッシュ)により、ヘルニアの出口や弱った腹壁の補強を行います。人工シート(ポリプロピレン製メッシュ)は50年ほど前から使用され、体内使用の安全性が確認されています。
鼠径ヘルニアの手術法の一つに、腹腔鏡(細い管の先端にカメラが付いた手術器具)を使用して手術を行う腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術法があります。腹腔鏡下手術では、従来から行われているお腹を切開する開腹手術(鼠径部切開法)と異なり、まずお腹に小さな穴を3ヵ所程度あけます。そのうちの1つの穴から腹腔鏡を入れてお腹の中を映します。その像をテレビモニタで観察してヘルニアの場所を見つけ、別の穴から入れた手術器具を外科医が操作して患部の治療をします。
腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術のメリット *従来法 (メッシュを用いない修復法) と比べて |
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腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術のデメリット |
必ず全身麻酔で行う必要がある。
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当院では、鼠径部切開法 (開腹手術) も導入しております。
従来から広く行われてきた手術方法です。体表から4~6cmの小切開 (開腹) を行い、ポリプロピレン製メッシュを留置します。
当院では、大腿(だいたい)ヘルニア、臍ヘルニア、腹壁ヘルニアについても腹腔鏡下手術・開腹手術のどちらも行っています。
外来受診 | 問診・視触診に加え、CT及び超音波による画像検査を行い、適切な手術方法について情報の提供を行います。 |
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入院~手術 | 手術当日の入院または前日より入院となります。 手術時間は麻酔を行う時間もあわせて2~3時間程度です。 |
術後 | 翌日から食事・歩行可能が可能です。 |
退院後 |
(術後の経過につきましては、個人差がありますので、状況をみて無理の無いように活動範囲を広げていきます。) |
成人のヘルニア(脱腸)は自然に治ることはありません。また、有効なお薬や運動療法もなく、手術のみが“治せる”治療です。良性の病気ではありますが、放置すると嵌頓(かんとん:飛び出した部分が元に戻らなくなること)になることがあり、緊急手術が必要になることもあります。嵌頓(かんとん)は鼠径ヘルニア患者さん全体の約5%程度に起こると考えられていますので、スケジュールのよい時期を選び、早めの手術治療を受けましょう。
岡山市立市民病院は総合病院であり、様々な専門科と連携することで、高齢者の方や心疾患・腎疾患・呼吸器疾患などをお持ちの方に対しても安全に手術治療を行えるよう努力しています。また、24時間救急診療を行っており、短期入院(1泊2日入院、2泊3日入院)を希望される方にとっても安心して治療を受けていただくことが可能です。
もしかして?と思われる方、すでにヘルニア(脱腸)でお悩みの方がいらっしゃいましたら、あまり悩まずに一度当院外来を受診してみてください。