病気の治療は基礎研究や臨床研究の結果や知見に基づいて行われます。そうした膨大な研究結果から質がよいものを選び、体系化したものが医療で用いられるガイドラインです。よって、ガイドラインに則って治療を行えば、より高い効果がよりよい確率で得られやすいということになります。
関節リウマチの薬剤をはじめとした治療手段や検査方法の進歩は目覚ましく、米国・欧州などから毎年のように治療推奨・指針の改訂が行われています。2021年4月、日本においても6年ぶりにガイドラインが改訂されました。
関節リウマチ診療ガイドライン2020は治療方針、55のクリニカルクエスチョン(実際の診療における疑問)と推奨、2つのQ&Aから構成されています。その中から、今回は治療方針について紹介させていただきます。
関節リウマチの治療目標は、短期的には病気の勢いをしっかりと下げることで関節破壊を抑える、長期的には生活の質を高く保ちながら長生きすることです。
治療は患者さんとリウマチ医(専門医)の協働的な意思に基づき決定されます。治療方針は病気の活動性や安全性、合併症などに基づいて決められますが、患者さんの個人的、医療的、社会的な費用の負担が大きいことを考慮する必要があります。
薬物治療アルゴリズムでは、3つのフェーズからなり、6か月以内に治療目標を達成できない場合、原則として次のフェーズに移ります。この場合の治療目標は、臨床的寛解(痛みや腫れがほとんどない状態)ないしは低疾患活動性(痛みや腫れがある関節が一つあるぐらいの状態)の達成です。太い実線矢印は強い推奨、細い実線矢印は弱い推奨、破線矢印は専門家の意見です。
フェーズⅠでは、関節リウマチと診断されると、まずメトトレキサート(以下、MTX)の使用を検討します。MTXの使用はすべてのフェーズで考慮されます。MTXについては、禁忌事項のほかに、年齢、腎機能、肺合併症などを考慮して、使用の可否と開始量が判断されます。MTXを使用する場合、葉酸製剤の併用が推奨されています。MTXの使用が難しい場合、MTX以外の従来型抗リウマチ薬(csDMARD)を使用します。
フェーズⅡでは、生物学的製剤(bDMARD)ないしはJAK阻害薬(JAKi)の使用を検討しますが、安全性やコストの面から生物学的製剤が優先されます。MTXを使用しない場合、非TNF阻害薬(non-TNFi、この場合はIL-6阻害薬)がTNF阻害薬よりも優先されます。またMTXを使用しない場合、生物学的製剤やJAK阻害薬の単剤治療も検討できるとされています。治療目標が達成・ 維持され、関節破壊進行が抑えられ、身体機能が維持できた場合、薬剤の減量が考慮されます。
副腎皮質ステロイド(以下、ステロイド)や非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、抗RANKL抗体(デノスマブなど)は補助的なもので、ステロイドは早期かつ必要最低限の使用にとどめます。抗RANKL抗体は、病気の活動性や軟骨破壊を抑えることはできませんが、骨破壊を抑えることができ、関節リウマチの活動性が低くなっても骨びらんが進行する、特に RF/ACPA*陽性の患者さんで考慮されます。
今回の診療ガイドラインでは、初めて非薬物治療および外科的治療のアルゴリズムが作成されました。また、このアルゴリズムは薬物治療に付随するもので、必要かつ十分な薬物治療を行うことが原則であると明記されています。 薬物治療で手足の関節症状や機能障害が残る場合、慎重な身体機能の評価が行われます。この際の画像評価として単純レントゲンのほかに、必要に応じて関節超音波、CT、MRIが行われます。その上でリハビリテーション治療、装具療法、生活指導、関節注射など保存的な治療が検討されます。
保存的な治療で効果が十分に得られない場合、関節機能再建術が検討されます。年齢、必要な関節機能、関節破壊の程度、手術の長期的な成績を考慮します。手術療法が適当と判断されれば、患者さんとの協働的意思決定に基づいて手術内容および時期が決定されます。
岡山市立市民病院 リウマチセンター 副センター長
若林 宏
《参考文献など》
関節リウマチ診療ガイドライン2020
*ACPA:抗CCP抗体