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第254回リウマチ教室:〈特別講座〉整形外科リウマチ外来から

解説:岡山市立市民病院副院長 リウマチセンター 臼井 正明(更新日:2020/12/17)

 

はじめに

関節リウマチの治療は進歩してきましたが、その進歩を生かすには患者さんと医療者が正しい知識・情報を共有することが重要です。今回、リウマチ教室特別講座として日常の診療の中から、最近の出来事や大切なポイントをお伝えしたいと思います。
 

Ⅰ.赤ちゃん誕生

 春には、二人の患者さんから嬉しい報告を頂きました。出産の知らせです。1例を紹介させていただきます。Aさんは、18歳で関節リウマチを発症し、メトトレキサートと生物学的製剤インフリキシマブの治療を受け寛解(かんかい)となりました。3年前にご結婚され、スルファサラジンと生物学的製剤セリトリズマブペゴルで治療しました。 昨年、妊娠され予定日に元気な女の子を出産されました(写真1)。
 抗リウマチ剤のスルファサラジン、タクロリムスや生物学的製剤セリトリズマブペゴル、エタネルセプトにより安心して出産できる時代になりました。 妊娠・出産の相談窓口も整備され、国立成育医療センターには専門外来が設置されています。また、インターネットからでも情報を得ることが出来ます。
(妊娠と薬情報センター:http://www.ncchd.go.jp/kusuri
 

写真1. 元気な赤ちゃんが誕生しました。
 

 

Ⅱ.市民病院整形外科リウマチ外来実態調査

 日本リウマチ友の会のリウマチ白書にならって、整形外科通院中の患者さんの実際を調査しました。

1.患者さんの性別・年齢について

患者さんの総数は525人で、女性が男性の約4倍多く、女性の病気といえます。受診されている患者さんの平均年齢は67歳で、70代が最も多くなっています(図1)。80歳を超えた方も85人(16%)おられます。

図1.患者さんの年齢分布

 

2.治療内容

 リウマチの治療薬には痛み止めやステロイドがありますが、中心となるのは抗リウマチ剤です。抗リウマチ剤は、大きく3つの種類に分類されます。
従来からの抗リウマチ剤、生物学的製剤(バイオ製剤) 、分子標的薬(ジャック阻害剤)があります。最も代表的は抗リウマチ薬で、メトトレキサートは約3分の2の患者さんが服用しています。他には、ブシラミン、タクロリムス、イグラチモド、スルファサラジンなど使用されています。バイオ製剤は、2003年にはじめてインフリキシマブが導入されました。非常に有効であり、多くの患者さんが寛解になりました。現在、30%以上の患者さんに投与されています。ジャック阻害剤は2013年のトファシチニブから4剤が承認され、当院でも約20人に処方されています。
近年は、薬物療法の進歩で寛解の患者さんが多くなり、ステロイド使用率も低下しています。関節の変形進行も抑制され、ひざ関節や股関節の手術件数は減っています。
 

3.患者さんの状態

 「寛解」という言葉はどういう状態でしょう。一般的には、痛みや腫れがなく患者さんも満足している状態ですが国際的な基準があります。病気の状態を示すDAS28(ダス28)と身体機能の障害を示すHAQ(ハック)を紹介します。
 

1)DAS28(ダス28)

 患者さんの病気の状態は、「なんとなく調子がよい感じ」では他の人には伝わりません。リウマチの病気の強さを「疾患活動性」という言葉で表現しますが、活動性が高いと関節炎が強く変形も進んでしまいます。代表的な活動性を示す指標にDAS28があり、数値で示されます。DAS28は、押さえて痛い関節の数(圧痛関節数)、腫れている関節の数(腫脹関節数)、血液検査の血沈やCRP、患者さん自身の体調の全般評価(VASバス)を数式にあてはめ計算するものです。
 

   計算式:DAS28-CRP= 0.56×√(圧痛関節数)+0.28×√(踵脹関節数)+0.36×LN( (CRP)×10+1) +0.014×(患者の全般評価)+0.96

   LN : 自然対数、CRP(mg/dl)、VAS (患者による全般評価: 0-100mm)
 

 DAS28が大きいと状態が悪い(高疾患活動性)とされ、小さいと調子がよいと判定されます。国際的な基準として定められており、「寛解」はDAS28-CRPが2.3未満、「低疾患活動性」は2.7未満、「中疾患活動性」は4.1以下、「高疾患活動性」は4.1より大きくなっています。
 当科525人の患者さんのなかで「寛解」の患者さんは283人(54%)、「低疾患活動性」の患者さんは70人(13%)で、約3分の2の患者さんはまずまずの病状でした(図2)。しかし、「高疾患活動性」の方もおられ、変形が進んだ患者さんや内臓の病気で十分お薬が使えない患者さんなどでは治療が十分に出来ず課題が残っています。
 

図2.DAS28-CRPによる疾患活動性評価


2)HAQ(ハック)

 患者さんの身体機能障害を表す指標です。日常生活で行う動作に関する質問に対して、「何の困難もない:0点」「いくらか困難:1点」「かなり困難:2点」「できない:3点」の4段階から回答してもらい、その平均数字を出したものがHAQ(ハック)です。①衣服の着脱と身支度、②起立、 ③食事、④歩行、⑤衛生、⑥とどく範囲、⑦握力、⑧家事や雑用の8群の質問があります。点数が高くなるほど日常生活に困難があることがわかります。0.5点以下であれば機能的寛解と考えられます。当科では、63%の患者さんが0.5以下でした(図3)。
 以上の結果から、約3分の2の患者さんは疾患活動性も良好で、日常生活で困難が少ないことがわかりました。数字で評価することで、具体的に表示されます。今後、この数字を向上させていく目標値にもなります。

 

図3.HAQによる患者さんの身体機能障害

 

Ⅲ.おわりに

 市民病院でリウマチ教室を始めて20年以上経過しました。今年度は、新型コロナウイルスの影響ですべて休会となってしまいました。友の会の総会・大会も中止になり、大変残念です。しかし、出産など嬉しいニュースもありました。また、この機会に当科の患者さんの実態を調査してリウマチ診療の重要ポイントも確認して、本稿で紹介することができました。新型コロナウイルスの流行は必ず終息します。希望をもって日頃の療養を続けましょう。皆さんのお顔を拝見できる日を心待ちにしています。

 

岡山市立市民病院副院長 リウマチセンター長 臼井 正明

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