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皆さん、ヘルニア(脱腸)ってご存知ですか?

スペシャリストに聞いてみよう!(診療のチカラ)(更新日:2020/07/01)

顔写真:外科 医長 池田 宏国

外科 医長 池田 宏国

コメント

2020年7月よりヘルニア外来を開設しました。
もしかして?と思われる方、すでにヘルニア(脱腸)でお悩みの方がいらっしゃいましたら、あまり悩まずに一度当院外来を受診してみてください。

よく聞く「椎間板ヘルニア」とは違うんですか?

椎間板ヘルニアは腰痛の原因となり、整形外科で取り扱う疾患です。今日、皆さんにお話しさせていただくのは、外科で扱う『ヘルニア』についてです。

これは、「だっちょう」とか「でべそ」と呼ばれ、古くから慣れ親しまれてきた病気です。ヘルニアとは体の組織が正しい位置からはみ出した状態で、お腹のヘルニアはお腹・腹壁の筋膜や筋肉がゆるみ、そこから腸などの内臓が移動してしまう状態です。「脱腸は子供の病気」というイメージを持たれがちですが、むしろ体の組織が衰えてくる中高年層に多い病気です。

この病気の方は多いんですか?

日本全国での年間患者数は30万~40万人程度とされ、肥満化や高齢化に伴い患者数は増加しています。そのうち、毎年年間16万人の方が手術治療を受けています。
皆さんがご存知の「虫垂炎」、いわゆる盲腸の手術が6~7万人程度ですので、かなり多くの方がこの疾患でお困りになっていることがわかります。

それでも約半数の方は医療機関を受診されていないことになるのですが、その理由としては、「脱腸・でべそといった病気に対する恥ずかしさ」や「どこに相談すればいいか分からない」といったことが挙げられます。

具体的にはどんな症状が出るのでしょうか?

最初は痛みがなく、入浴中やくしゃみをした時などお腹に力がかかった際に、おなかの一部が『ぷくっ』と膨らむことで気づくケースが多いようです。大人の場合は自然に治癒することはなく、そのままにしておくとどんどん大きくなります。場合によっては命に関わるような状態になることもあります。

おなかの一部が膨らむというのは、どんなところが膨らむんですか?

膨らむ場所によって呼び方が異なります。主なものを4つ挙げます。

1つ目は、脚の付け根が膨らむ鼠経(そけい)ヘルニア。男性の場合、陰嚢まで膨れることがあります。これが全体の8から9割を占め、最も多いです。
2つ目は太ももの上部あたりが膨らむ大腿(だいたい)ヘルニア。
3つ目はおへそやその周りが膨らむ、臍(へそ)ヘルニア。
4つ目はおなかの手術を以前に受けたかたにおこる、腹壁ヘルニアです。

それぞれについて、詳しくお聞きしていいですか?

◆鼠径(そけい)ヘルニア
「鼠径(そけい)」部とは、太もも、もしくは、足のつけねの部分のことをいいます。脚の付け根に押すと戻る膨らみを見つけたり、引っ張られるような違和感がある場合は、鼠経ヘルニアが疑われます。日常的に重いものを運ぶ人や、立ち仕事などの同じ姿勢を続けてきた人、肥満気味な人、加齢によって体の組織が衰えた中高年層の男性に多いです。

大腿(だいたい)ヘルニア
鼠径ヘルニアと同じように加齢などにより筋肉や筋膜が弱くなることや、重たい物を持つなど腹圧がかかる状態が続いたときに起こりやすいです。鼠径ヘルニアとは違って、こちらは中年以降の女性に多くみられます。特に、出産を多く経験した痩せ型の女性に多いと言われています。

◆臍(へそ)ヘルニア
臍(へそ)ヘルニアはへそ周囲が膨らみます。子供の「でべそ」として広く知られておりますが、大人でも、肥満、妊娠などをきっかけに発生することがあります。

腹壁ヘルニア
おなかの手術を以前に受けた方が、加齢などが原因で傷跡が弱くなり、脱腸を起こすことがあります。

放っておくとどうなるんですか?自然に良くなることはありますか?

小さなお子さんの場合は成長とともに筋肉が発達して治ることもありますが、大人の場合、自然に良くなることはありません。時間の経過とともにどんどん大きくなります。

また、怖いのはそれまでであれば横になったり、軽く押したりすると元の位置に戻っていたものも戻れなくなる場合があることです。これは、「かんとん」と呼ばれます。腸の場合だと、戻れなくなった腸はどんどんむくみ、締め付けが強くなり、ついには腸が壊死したり、破れたりしてしまい、緊急手術・腸切除が必要になる等、時によって命にかかわることがあります。

治療は残念ながら、手術しかありません。弱くなり傷んだおなかの壁を人工シートで裏打ち・補強を行うようなイメージです。手術方法としては、前から補強する「前方アプローチ法」と裏から補強する「腹腔鏡下手術」があります。

岡山市立市民病院でのこの疾患への取り組みなどをご紹介いただけますか?

2020年7月に「ヘルニア外来」を開設しました。また、当院は様々な専門科との連携が可能な総合病院で、高齢者の方や、心疾患・腎疾患・呼吸器疾患などをお持ちの方に対しても安全に手術治療を行えるよう努力しています。また、24時間救急診療を行っており、短期入院を希望される方にとっても安心して治療を受けていただくことが可能です。

ヘルニア外来について

 

ポイント

ヘルニア(脱腸)でお困りの方は本当に数多くおられますが、あまり知られていないのが現状です。多くの方々にヘルニアという疾患について病態・治療の必要性などを広く認識・ご理解していただけるよう啓蒙活動を行っていきたいと思っています。