副腎皮質ステロイドは、1948年関節リウマチ治療薬として米国メイヨ―クリニックのケンダル、ヘンチにより導入されて以来、関節リウマチを含む多くの膠原病患者さんに使用されてきました。高い効果を有する一方で、ヘンチ自身が警鐘を鳴らしたように多くの副作用をもつ薬剤でもあります。今回は、副腎皮質ステロイドの事、注意すべき副作用、うまく使う方法について説明させていただきます。
副腎は、左右の腎臓の頭側にある1cm程の臓器で、ホルモンと呼ばれる情報伝達物質をつくる臓器です。副腎は皮質と髄質に分かれていて、副腎皮質ステロイドは読んで字のごとく副腎皮質で産生されます。ホルモンは先に述べたように体内の情報伝達ですから、誰にでも(確実性)すぐに(即効性)効きます。これが副腎皮質ステロイドの最大の利点です。一方、体内の情報伝達物質は様々な作用を持っています。副腎皮質ステロイドも多彩な作用があり、量が多くなるとかえって有害になること があります。これが他の薬剤にはない欠点になります。
副腎皮質ステロイドの働きには、糖質作用のほかに、体内の電解質を調整する鉱質作用、性ホルモン作用があります。体内で産生される天然型ステロイドであるコルチゾル(ヒドロコルチゾン)はこれらの作用をそれぞれ持っています。膠原病では糖質作用が大切で、鉱質作用、性ホルモン作用を抑えたタイプの合成ステロイドが使用されます。
副腎皮質ステロイドの糖質作用は、俗にストレスホルモン(ストレスに対応するホルモンの意)といわれ、生命に危険が及ぶような時に分泌されます。免疫反応が過剰に起こると体力は消耗されるので、免疫の過剰を抑える必要がありますが、この免疫を抑える作用が関節リウマチをはじめとした膠原病で期待される効果になります。
生命に危険が及ぶ状況としては、血圧低下、低血糖、やせ、食欲低下、意識障害、カルシウムの低下(カルシウムは筋肉を動かすのに必要)、出血が挙げられます。副腎皮質ステロイドはこれらの場合でも状況を打開すべく分泌されます。つまり、血圧上昇、高血糖、脂肪の増加、過食、不眠・躁、骨塩の減少(カルシウムの動員に伴う)、血液の過凝固といった作用があります。副腎皮質ステロイド剤は、ステロイドの過剰状態に作り出すので、本来の作用の過剰状態が副腎皮質ステロイド剤の副作用になります。
繰り返しになりますが、副腎皮質ステロイドの長所は確実に効くことと早く効くことです。これらの長所においてステロイドを凌ぐ薬は今のところありません。関節リウマチ診療ガイドラインにおいても、必要最小量かつ可能な限り短期間とする前提ではありますが、症状の改善を図る必要がある場合に使用を勧められています。また関節リウマチ以外の多くの膠原病のガイドラインでもその使用が認められています。
副作用は副腎皮質ステロイドの量と期間に依存するので、副作用を最低限に抑えるには、より少ない量を使い、できるだけ量が多い期間を短くし、可能であれば中止することを心掛けたいところです。
ただ、急な減量、中止は危険ですので注意してください。副腎皮質ステロイドは生命維持には必須ですが、薬剤で補われている時は体内での分泌が低下しています。特に生理的に分泌される量(プレドニゾロン5㎎/日、メチルプレドニゾロン4㎎/日、ベタメゾン0.5㎎/日)に近づいた場合はゆっくり減量するようにしてください。そして特に長期間(だいたい1.5か月以上)使用している場合は副腎不全 (ステロイド不足の状態)になることがあるので、急にやめないようにしてください。
副腎皮質ステロイドの副作用を減らす基本は必要最小限の薬剤使用に留めることです。ステロイドにより起こった副作用、合併症に対しては、特有の治療はなく、それぞれの副作用、合併症の治療に準じて治療していきます。
副作用予防についての予防方法を図にまとめました。
感染症の基本は手洗い、マスク、うがいです。感染症が流行しているときは人混みを避けた方がいいです。他には、インフルエンザ、肺炎球菌、新型コロナ、帯状疱疹に対してのワクチン接種が推奨されます。ワクチン接種は免疫を活性化する作用があり、関節リウマチ、膠原病が悪化することがあるので接種前に主治医の先生に接種可能かどうか確認するようにしてください。また、感染症の種類としては、肺炎が最も問題になります。副腎皮質ステロイドの量が多い(プレドニゾロンで15㎎/日以上)場合、 生物学的製剤・JAK阻害薬を使用している場合はカリニ肺炎の予防薬を使用した方が望ましい場合があります。また、メトトレキサートや生物学的製剤・ JAK阻害薬を使用する際には、結核の既往が考えられる〔明らかな診断歴がある、画像検査(レントゲ ン、CT)や採血検査(T-SPOT 、クォンティフェロン)での検査異常がある〕場合、結核患者との濃厚な接触歴がある場合には抗結核薬を6-9か月を飲んでいただきます。
耐糖能異常・糖尿病、高血圧、脂質異常、骨粗鬆症に関しては、まずその存在を知る必要がありますので、血圧測定、血糖・コレステロールの血液検査、 骨塩定量を定期的に行ないます。また、ステロイドを飲んでいる場合は間食をできるだけ控え、可能な範囲でウォーキングなどの適度な運動を行い、体重をしっかり管理するようにしてください。また、3 か月以上副腎皮質ステロイドを使用する場合は、骨粗鬆症治療薬の投与が望ましいとされています。
岡山市立市民病院 リウマチセンター 副センター長
若林 宏
《参考文献》