内分泌疾患とは、ホルモンの異常により身体に不調をきたす疾患です。ホルモンを分泌する臓器は全身にいくつもあり、分泌された後は血液に乗って全身を巡るため、特定の臓器だけで症状が出るとは限りません。そのためなかなか原因がわからず、治療を受けられない方も多いという現状があります。
市民病院では「内分泌センター」が2022年に設立されました。内分泌内科専門医からなる内分泌内科を中心に、手術が必要な患者さんには脳神経外科・外科・泌尿器科と連携して総合的に診療を行っています。
どのようにして診療科を越えた連携を実現しているのか、外科・池田先生と内分泌内科・小松原先生にお話をお伺いしました。
医師紹介
内分泌センターでは診療科を越えた連携が強化されましたが、もともとお二人は以前から一緒にお仕事をされていたんですよね。
池田(以下池・写真左):小松原先生と僕は以前は岡山大学病院にいて、小松原先生が内分泌内科、僕が甲状腺の外科として同じ日に外来を持っていました。だから赴任して来られると聞いて驚きました。
小松原(以下小・写真右):甲状腺の手術ができる池田先生がいるのは、とても頼もしかったです。
池:甲状腺を取り扱っている外科って少ないですからね。それを言うと、内分泌専門医が病院に複数人いるのも珍しいですが、市民病院はもともと内分泌内科専門医が2名いるところにさらに小松原先生が来られたので、これは内分泌に関する診療体制が強化できるなと思いました。
小:以前のやり方をそのまま引き継げたので連携がスムーズだったし、いい体制になりましたよね。池田先生がおっしゃるとおり専門家が少ない分野なので、一般的には別の病院に紹介になるか、日を改めて受診していただくケースが多いのですが、市民病院では内分泌内科と甲状腺外科が木曜午後に外来を持っていて、同じ日に同じ病院で診察を受けていただくことができますからね。
池:はい。患者さんにとっていい環境だと思います。
内分泌センターでは内分泌内科と外科系科との「連携」がキーワードですが、実際どのようにそれぞれの診療科が関わっていくのでしょうか。
小:いろんなパターンがあるんですが、今回は特に外科との連携が必要になる「バセドウ病」を例にしてお話しします。
バセドウ病は甲状腺ホルモンが異常をきたす病気ですが、まず市民病院を受診した時点で疾患が判明していない方がほとんどです。甲状腺ホルモンの値が高いことから何らかの内分泌疾患を疑い、他院からの紹介で内分泌内科を受診される方が多いです。
血液検査などでバセドウ病と診断が付いたら、まずは内分泌内科の外来で薬物治療をしていくことになります。治療を進めていくと、中には薬の副作用が強かったり、長く飲み続けても効果が現れなかったり、薬を多く飲んでもコントロールが難しかったりする方がいます。そういったやむを得ない事情がある方や、希望される方には手術を考えます。
すぐに手術できる状況の方は、木曜午後であれば池田先生にその場で連絡して、その日のうちに外科を受診していただく場合が多いですね。
ただ、ホルモンの値が下がらないと安全に手術できないので、そういう方はしばらくホルモンを下げる治療をしていくことになります。その場合は事前に池田先生に声をかけて情報共有しておき、手術ができる状況になったら改めてご相談します。
外科で手術の日程が決まれば、内分泌内科では手術に向けて薬を調整したり、術後の合併症対策をしたりして、カルテで情報を共有します。
合併症対策は内分泌内科でされるんですね。
小:そうですね。具体的には、ホルモンを下げるのに薬を増やしたりします。それから、バセドウ病の方はカルシウムが下がったりするんですけど、下がりそうな経過の方にはカルシウムの吸収を助けるビタミンDを事前に飲んでおいてもらったりします。
周術期は外科でカルシウムの点滴や薬を出してくれるので、入院してからは基本的に外科にお任せして、僕は病室にお見舞いに伺って状況を見守っています。術後に介入が必要な場合には内分泌内科が主体となって治療を行うこともありますが、特にトラブルがなければ、入院中はお任せしています。
退院してからはどんな流れになりますか。
小:退院後は、外科では創(きず)を診てくれて、内分泌内科ではミネラルやホルモンのコントロールをしていくことになります。外科と内分泌内科で情報共有しながら同時進行で診療していきますが、市民病院ではだいたい退院後の次の外来で外科は終了になりますよね?
池:1回で終わることが多いです。
小:手術の創がきれいだとトラブルが起こりにくいんですよね。その後はまた内分泌内科で診ていくことになります。
術前のコントロールから周術期、術後のフォローまで、切れ目なく連携していることがわかりますね。逆に、同時に診療していることでどちらの科が担当するか迷う状況はないのでしょうか。
池:例えばバセドウ病だったら、主治医は内分泌内科の先生になります。
手術っていうのはお薬を飲むのと同じ「治療法のひとつ」であって、全貌を見てコントロールしているのはあくまで主治医です。良性疾患の場合は経過が長くて、主治医と患者さんは長く付き合っていくことになるし、そこの領域を冒すと患者さんも誰に何を聞いたらいいのかわからなくなるでしょう。
だから僕は手術に集中して、出来るだけ術後の負担も少ない形でトラブルが起きないように完遂して、存在感は出しません。医師の先生方にも、僕ら(外科)はあくまでデバイスなので、お薬やCTと同じように気軽にご相談いただきたいと思っています。
小:本当に助かります!池田先生は小切開手術を中心にされていて、創が小さいんです。創が小さいと回復も早いですし、患者さんの負担が少なくて済むので、本当にありがたいです。
どちらの科が担当するかグレーな領域というのはありますが、今の体制では専門性がはっきりしているので、そこで迷うことはほとんどないです。もしあっても、そういう領域は内分泌内科が手を上げます。
池:僕はそういう時は引きます。自分の領域ではもちろん責任を持ってやりますが、プロとして線引きも大事です。そこをあいまいにしてしまうと患者さんも混乱しますよね。
連携も重要ですが、同じように領域の線引きも重要なんですね。
小:それぞれの専門性がありますからね。
池:内分泌疾患は薬の調整が難しいこともあって、内分泌内科の先生にしかできません。小松原先生が創の小ささを褒めてくれるのは嬉しいですけど(笑)、外科系科としては「僕らは手術しかできないから、あとはよろしくお願いします」っていう・・・そこはもう、リスペクトです。
小:そうですね。術前術後のホルモンや薬のコントロールに関しては内分泌内科が介入して、それぞれの領域で力を尽くしながら一緒に患者さんを診ています。
池:主幹は内分泌内科で、外科系科は手術という治療に特化。そういう体制を軸に、ひとつのユニットとして連携を強化し、組織化したのが内分泌センターです。
▶第2回を読む
次回はそれぞれの専門分野について詳しくお話をお伺いしました。
2022年 内分泌センターを開設しました!
お話をお伺いしたのは・・・
岡山市立市民病院 外科 医師 池田 宏国(いけだ ひろくに)
岡山市立市民病院 内分泌内科 医師 小松原 基志(こまつばら もとし)
※役職は掲載時のものです。変更になっている場合がありますがご了承ください。