市民病院で20年以上にわたり行ってきたリウマチ教室。新型コロナウイルスの影響により、2020年7月よりWeb版・瓦版(院内での資料配布および掲示)と形態を変え、皆様のリウマチ療養にお役立ていただくべく、引き続き情報を発信しております。
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第275回リウマチ教室 筋力トレーニングについて
解説:岡山市立市民病院 リハビリテーション技術科 理学療法士 黒住 壮志
近年、筋力トレーニングの大切さについてテレビや雑誌などのメディアで目にする機会が多いと思います。今回は、筋力トレーニングをするうえでの基礎的な知識や報告を紹介させていただきたいと思います。
筋力トレーニングにまつわるQ&A
1.筋力トレーニングの効果は?
①骨格筋量が増える
②基礎代謝の向上と体脂肪の減少
③サルコペニア(加齢による筋肉量の減少)やフレイル(虚弱)の予防
④糖代謝の改善やインスリン抵抗性の改善
⑤関節への負担の軽減
など様々な効果が報告されています。
筋力は20~30歳頃でピークに達し、65歳ではピーク時に比べ上肢筋で約20%、下肢筋で約30%低下するといわれています。
特に加齢に伴い遅筋繊維(ゆっくり収縮し、長時間発揮する筋肉)より速筋繊維(速い収縮で、発揮する力の大きい筋肉)の萎縮が大きいといわれています。
2.筋力トレーニングの法則とは?
◆過負荷の法則
心肺機能や骨格筋の筋力を向上させるためには、普段より強い負荷が必要であり、一般的には最大筋力の60%以上の強度で筋力トレーニングをする必要があるといわれています。
また、最大収縮の20%より強い運動で速筋線維が働き、20%より弱い運動で遅筋線維が使われやすいという報告があります。下記の表は筋力トレーニングをするうえでの、運動強度と期待できる効果をまとめたものです。
◆特異性の法則
トレーニングの効果は、行なった運動様式や使用した筋肉に依存するという法則です。
例えば運動強度は筋力増強を目的にするのであれば高強度で低回数、持久力向上を目的にするのであれば低強度で高回数を行う方が効率的です。
他には、ある特定の関節角度で筋力トレーニングを実施した場合、その関節角度における筋力トレーニング効果が高いといわれているため、獲得したい動作に準じた筋力トレーニングを実施した方が効率がよいです。
筋収縮の種類別による筋力増強運動
●求心性収縮
筋の長さが短くなりながら筋収縮する運動
(例:肘を伸ばした状態からダンベルを持ち上げる時の上腕二頭筋の運動)
●遠心性収縮
筋の長さが伸張しながら筋収縮する運動
(例:肘を曲げた状態からダンベルを下ろすときの上腕二頭筋の運動)
●等尺性収縮
関節を動かすことなく筋収縮する運動
(例:肘を曲げた状態で止めておくときの上腕二頭筋の運動)
遠心性収縮は他の2つの収縮に比べて筋力増加や筋肥大の効果は高いため、トレーニングをするときは、戻す動作をゆっくりとする方がよいです。
等尺性収縮は関節にかける負担は少なく、痛みを出しにくいため、変形性関節症や関節リウマチなどの有痛疾患に適応しやすいです。
3.筋力増強のメカニズムとは?
筋力トレーニングの初期の筋力の増加は、主に神経系の改善によるもので筋肥大はみられません。
トレーニング開始20日後でも筋断面積はほとんど変化なく、40日、60日と進むにつれて筋断面積は増加し始めると報告されているため、トレーニング初期に筋肉が太くならなくても心配はいりません。
4.筋力トレーニングをする際の注意点は?
筋力を発揮する際は、息を止めて下腹部に力をいれた方が大きな力は発揮しやすくなりますが、息を止めて行なうことで血圧が一気に上昇しやすくなるため、呼吸をしながら運動をすることが大事になります。
具体的には力を入れるときに息をはき、戻すときに息を吸うのが基本です。息をはくことにより腹筋群に力が入り、体幹が安定しやすくなります。
5.スロートレーニングとは?
近年スポーツやヘルスプロモーションにおいて、スロートレーニングが注目されています。
筋を弛緩させずにトレーニングを実施することにより、成長ホルモンの分泌が促進され、低強度の負荷でも筋力増強効果は高いとされています。
実際に、高負荷トレーニング(最大収縮の70%の負荷)とスロートレーニング(最大収縮の40%の負荷)を行なった実験では筋断面積は同じくらい太くなるといわれ、高負荷トレーニングと同様に速筋線維は活動すると報告されています。
また、スロートレーニングは通常の高負荷トレーニングと比較すると、負荷量が少ないため関節にかかる負担は小さく、整形外科的な障害のリスクが少ないのも利点です。
スロートレーニングのやり方
①5秒かけて動いて、5秒かけて戻る(スクワットや膝関節伸展トレーニングなど)
②関節をロックしない(膝関節や肘関節を伸ばしきらない)
③回数は10回を2~3セット程度で、週2~3回行う
④呼吸は止めない
出典および参考Webサイト
1.市橋則明:運動療法学 第2版.文光堂.2018
2.池添冬芽 他:スロートレーニングとパワートレーニングのどちらの筋力トレーニングが高齢者の機能向上に有効か?.2014
3.千住秀明:運動療法Ⅰ 第2版.九州神陵文庫.2014