市民病院で20年以上にわたり行ってきたリウマチ教室。新型コロナウイルスの影響により、2020年7月よりWeb版・瓦版(院内での資料配布および掲示)と形態を変え、皆様のリウマチ療養にお役立ていただくべく、引き続き情報を発信しております。
※更新日が古いものは最新の知見と異なる場合がありますのでご注意ください。
第285回リウマチ教室 メトトレキサートについて
解説:岡山市立市民病院 リウマチセンター長 若林 宏
はじめに
メトトレキサートは関節リウマチ治療薬の中で最も重要な薬剤です。1999年関節リウマチに適応となり市販されるようになってから、安価で、長年の使用実績と高い有効性を有し、比較的安全性が確立されており、国内はもちろん、欧州、米国を含め世界中のあらゆる関節リウマチの診療ガイドラインで第1選択薬として使用することが推奨されています。
昨年に本製剤の皮下注射製剤が発売されました。また、今年7年ぶりに診療指針として「関節リウマチにおけるメトトレキサート使用と診療の手引き」が発刊されました。これらを踏まえ、今回はメトトレキサートについての情報や注意点についてまとめました。
知っておきたいメトトレキサートの情報&注意点
有効性
発症1年未満で中等度以上の疾患活動性がある関節リウマチの方に対する有効性は約7割の方でみられ、3割の方が寛解することが知られています。機械的に用量を増やした場合、その効果は開始後半年で定常状態に達します。また、海外での治験では、関節リウマチ治療での頻用薬であるエタネルセプトと同等の有効性が証明されており、生物学的製剤と同じぐらい高い効果があるとされています。
生物学的製剤を使用する場合、一般的にメトトレキサートを併用した方がより効果が高く、関節リウマチ診療ガイドラインにおいても1剤目の生物学的製剤を開始する際はメトトレキサートからの切り替えではなく、併用が勧められています。
JAK阻害薬を使用する場合、生物学的製剤と同様にメトトレキサートを併用した方が高い効果が得られやすいことが知られています。しかしJAK阻害薬では長期の安全性が十分に確立されてはいません。
主な副作用
メトトレキサートの副作用と対処方法を表1の通りまとめました。副作用は大きく分けて用量依存性のものと用量非依存性のものに分けられます。用量依存性のものは葉酸製剤の併用が有効で、程度が軽い場合は用量を減らすことで改善が見込まれます。用量非依存性、かつ重篤な副作用の場合は原則的に中止が必要です。
また通常の薬剤の副作用は使用開始後数か月以内に副作用がみられることが多いですが、メトトレキサートの副作用は数年単位で出現することも多く、治療期間中であればいつでも新たな副作用が起きうるため、疑わしい症状がみられた場合は早めに主治医やかかりつけ薬局にご相談ください。
経口製剤と皮下注射製剤
2022年にメトトレキサートの皮下注射製剤が発売されました。用量は基本的に経口薬剤と同様ですが、あらかじめ溶解されてシリンジに入っているため1回1本、週1回注射していただきます。インスリンや生物学的製剤と同様に自己注射が可能なため、薬局で処方してもらい自宅で投与できます。
皮下注射製剤のメリットは、吐き気や胸やけなどの消化器症状が少ないことです。吐き気の頻度は経口薬の約半分であることが証明されています。デメリットは経口製剤よりも高価であること、注射部位の痛みが挙げられます。注射部位の痛みは現時点で生物学的製剤の皮下注射製剤よりも軽いとされています。有効性については経口製剤よりも多くの用量が使えること、体内での吸収効率の良いことから国内試験では若干経口製剤よりも関節リウマチがよくなりやすいとされています。
葉酸製剤の併用
葉酸製剤の併用は、メトトレキサートの開始用量にかかわらず、全てのメトトレキサート治療を受ける患者さんで推奨されています。肝機能障害、消化器症状、口内炎の予防効果があり、関節リウマチへの治療効果への影響は原則的になく、メトトレキサート治療が継続しやすくなります。ただし、メトトレキサートの用量によっては、葉酸が含まれるサプリメントや総合ビタミン剤の服用によって効果が弱くなる可能性があるのでサプリメントや健康食品の使用を考えたいときは主治医やかかりつけ薬局に必ず相談してください。
その他使用上の注意
併用禁忌薬はありませんが、治療量のST合剤やペニシリン系などの抗菌剤、一部の抗てんかん薬との相互作用により血中濃度が高くなることがあるため注意が必要です。
妊娠中および授乳中はメトトレキサートは禁忌になります。妊娠を希望される場合は前もって主治医に相談していただき、メトトレキサート使用中の女性は必ず避妊してください。男性の場合は従来精子への影響から避妊が必要でしたが、近年の研究結果から「関節リウマチにおけるメトトレキサート使用と診療の手引き2023年版」では避妊が不要となっています。ただし、添付文書が改訂されていないため国内では男性もメトトレキサート使用中は現時点では避妊が必要とされているので、パートナーの方の妊娠・出産を考えておられる場合は主治医にご相談ください。
参考文献
- Atsumi T, et al. Ann Rheum Dis 2016, 75: 75-83.
- Klanskog L, et al. Lancet 2004, 363: 675-681.
- 「関節リウマチにおけるメトトレキサート使用と診療の手引き2023年版」日本リウマチ学会MTX診療ガイドライン小委員会/編, 羊土社, 2023.
- 「関節リウマチ診療ガイドライン2020」日本リウマチ学会/編, 診断と治療社, 2021.
- Tanaka Y, et al. Mod Rheum 2022, 1-10.
お話をお伺いしたのは・・・
岡山市立市民病院 リウマチセンター長 若林 宏
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※役職は掲載時のものです。変更になっている場合がありますがご了承ください。
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