市民病院で20年以上にわたり行ってきたリウマチ教室。新型コロナウイルスの影響により、2020年7月よりWeb版・瓦版(院内での資料配布および掲示)と形態を変え、皆様のリウマチ療養にお役立ていただくべく、引き続き情報を発信しております。
※更新日が古いものは最新の知見と異なる場合がありますのでご注意ください。
第273回リウマチ教室 帯状疱疹ワクチン
解説:岡山市立市民病院 リウマチセンター副センター長 若林 宏
はじめに
関節リウマチや膠原病では副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤、生物学的製剤など免疫力を低下させる薬剤を使用することがあります。免疫力を低下させる薬剤を使用する際には、常に感染症に気を付ける必要があります。その感染症の一つに帯状疱疹があり、それを予防するワクチンが日本でも使えるようになったこともあり、注目を集めています。
水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella-Zoster virus)
水痘(Varicella)は、一般に「水ぼうそう」として知られている感染症です。全身に丘疹、水疱をともなう発疹をおこし、通常9歳以下で発症します。皮疹以外には発熱、倦怠感、くしゃみや咳がみられます。
水痘は水痘・帯状疱疹ウイルスに初めてかかった時にみられる症状ですが、感染力が非常に強く、飛沫感染、空気感染をおこします。水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫力がないと病棟で同じフロアにいるだけで発症する可能性があります。病原体は、水痘・帯状疱疹ウイルスというヘルペスウイルス科に属する2本鎖DNAウイルスです。このウイルスは水痘が治癒した後も、知覚神経節に潜伏感染します。
帯状疱疹(Zoster)は、ウイルスに対する免疫力が低下したときに潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化したもので、再活性化した知覚神経に沿って帯状に小水疱を来たし、しばしばかゆみと痛みを伴います。帯状疱疹には有効な抗ウイルス薬があり、1-2週間で皮疹は軽快します。
しかし、皮疹がよくなった後も、皮疹があった部分に一致してかゆみや痛みが残ることがあり、これを帯状疱疹後神経痛といいます。帯状疱疹によって引き起こされる痛みは非常に強く、時に不眠を引き起こすなど日常生活に支障をきたすこともしばしばあります。
日本人の3分の1は80歳までに帯状疱疹にかかります。従来、帯状疱疹は保育園、幼稚園従事者や30-39歳の子育て世代に少ないことが知られていましたが、水痘にかかった小児に接する機会が多いためと推定されています。2014年に乳幼児に対する水痘ワクチン接種が定期接種となり、小児を中心とした水痘患者が大幅に減少しており、反対に帯状疱疹は特に対策が取られなかった場合、しばらくの間増加すると考えられています。
帯状疱疹の発症リスク因子
図1は帯状疱疹発症リスク因子をまとめたものです。50歳以上になると帯状疱疹の発症は10倍に増えます。またステロイドや免疫抑制剤の使用、免疫抑制状態は帯状疱疹発症の危険性を高くすることが知られています。
帯状疱疹ワクチン
帯状疱疹ワクチンには生ワクチンと遺伝子組換えサブユニットワクチンの2種類があり、前者は単回投与、後者は2回投与(2-6カ月の間隔をあける)となります。対象はいずれも50歳以上の方です。
健常な方を対象にした臨床試験の結果では、生ワクチンで51.3%、サブユニットで97.2%の帯状疱疹発生抑制効果が確認されています。生ワクチンでは70歳以上で効果が減弱し、サブユニットワクチンでは年齢による効果の減弱は確認されていません(表1)。
生ワクチンでは「明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する者及び免疫抑制をきたす治療を受けている者」への投与は禁忌です。サブユニットワクチンは2020年1月から国内で使用できるようになっており、膠原病患者さんの多くはサブユニットワクチンを考慮すべきです。
膠原病の患者さんにおけるサブユニットワクチンの帯状疱疹発生抑制効果は90.5%で、70歳を超えると若干効果が減弱します。副反応としてはアレルギーの他に、膠原病の悪化に注意する必要があります。サブユニットワクチンには免疫活性化物質が含まれているためです。
膠原病の方を対象にした臨床試験では、4.4%の方で病気の悪化や新規の免疫疾患発症が報告されています。理論上、ワクチン接種が膠原病を悪化させる可能性がありますので、病気が十分にコントロールされた状態でワクチン接種を受けるようにしてください。
参考文献
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