市民病院で20年以上にわたり行ってきたリウマチ教室。新型コロナウイルスの影響により、2020年7月よりWeb版・瓦版(院内での資料配布および掲示)と形態を変え、皆様のリウマチ療養にお役立ていただくべく、引き続き情報を発信しております。
※更新日が古いものは最新の知見と異なる場合がありますのでご注意ください。
第278回リウマチ教室 関節リウマチと脆弱性骨折
解説:岡山市立市民病院副院長・リウマチセンター長・整形外科医師 臼井 正明
はじめに
関節リウマチの患者さんは骨折しやすいことが報告されています。骨折すると身体の機能低下が進み、支援や介護が必要になる場合が多くあります。厚生労働省の調査でも、要介護になる原因として骨折・転倒が認知症、脳血管障害に次いで3番目に多い疾患となっています(図1)。

図1.要介護となった主な原因疾患 (2019年国民生活基礎調査の概況より)
骨折の中でも、立った高さからの転倒など、わずかな外力で生じたものを脆弱性骨折といいます。
今回、リウマチ患者さんにみられた脆弱性骨折について取り上げました。
転倒したことがある人は注意を払いましょう
1.骨折のしやすさ、部位
当院整形外科で加療中のリウマチ患者さん538例(男性114例、女性424例、平均年齢68.4歳、平均罹病期間14.9年)を調査しました。
立った高さからの転倒など、わずかな外力で生じた脆弱性骨折は、119例(22%)にみられました。実に5人に一人は骨折経験者です。
骨折した場所では、腰椎・胸椎の椎体骨折(背骨)が最も多く、次いで大腿骨(太ももの骨)、骨盤(お尻の骨)、手首の順でした(図2)。

図2.脆弱性骨折の場所
2.脆弱性骨折の有病率
男女別では、男性は114人中10人(8.8%)に骨折がみられたのに対し、女性は424人中109人(25.7%)と多くなっていました。女性は男性に比べ約3倍も骨折した患者さんがいらっしゃいました。女性は、元来骨密度が低いうえに、閉経後は骨粗鬆が進みやすく骨折しやすくなるようです。
また、年代別の骨折有病率を調べてみると60歳までは骨折はほとんどみられませんでした。65歳から骨折の有病率が少しずつ増加し、70歳を過ぎると急速に増えていくことがわかりました。80歳以上では、3人に一人は骨折していました(図3)。

図3.年齢別脆弱性骨折の有病率
3.ステロイド内服の影響
調査期間中にステロイドであるプレドニゾロンを内服していた患者さん84人の中で、40人(48%)に骨折がみられました。これに対し、プレドニゾロンの内服歴が全くない患者さん353人中で、骨折のみられた人は58例(16%)と少なくなっていました。
また、プレドニゾロン内服を途中で止めることができた患者さん101例では21人(21%)に骨折がみられました。
これにより、ステロイド投与により有病率が約3倍高くなることや中止により骨折が減ることがわかりました。
ステロイドは、リウマチの治療に欠かせない薬剤です。しかし、骨折リスクの面からは可能な限り減量、中止したほうが望ましいといえます。
4.骨折により身体機能が低下
骨折を生じると、安静を余儀なくされます。入院や手術が必要な場合もあります。骨折の直接的な影響に加えて、安静によってさらに身体機能の低下が進みやすくなります。
身体機能の評価のひとつにHAQ-DIがあり、障害が悪化すると数値が大きくなります。そして、0.5以下を機能障害が少ない寛解と定義しています。
当科での骨折のない患者さんとある患者さんの平均HAQ-DIは、それぞれ0.4と1.16で寛解率は76%と29%でした。脆弱性骨折が生じると7割以上に身体機能障害が進んでいたことがわかりました。

図4.身体障害のHAQ-DIによる寛解率
以上より、関節リウマチ患者さんの約20%に脆弱性骨折がみられ、骨折部位は背骨、大腿骨や骨盤に高い頻度で発生していました。骨折の有病率は70歳から増加し、特に女性は男性の約3倍多くみられました。ステロイド投与は骨折を増加させ、骨折があると機能障害も進んでいました。
5.骨折の予防
転倒して骨折することを防ぐには、どうすればよいのでしょう。それは、転倒予防と骨粗鬆対策です。
転倒しやすい人、それは転倒したことがある人です。
自分が転倒しやすいことを自覚して、注意を払いましょう。加齢によりバランス感覚や筋力が低下します。関節が悪くなると運動機能が低下して転倒しやすくなります。視力低下、高血圧、糖尿病などの進行もふらつきの原因となります。
持病の治療をしっかりと行うことが重要です。
杖の使用も効果的です。段差の解消、手すりの設置、足元を照らすなど住宅環境の整備も転倒予防に有効とされています。
骨粗鬆症とは「骨量が減少し、骨強度が弱くなって脆弱性骨折が生じやすい疾患」です。
したがって、脆弱性骨折を起こしたことのある人は、骨粗鬆症と診断されます。若いころに比べて4cm以上身長が低くなった人、体重が減った人、お母さんやお祖母さんが骨折された方は骨粗鬆になりやすいようです。ステロイドに加えて、抗血栓予防剤ワーファリン、利尿剤ラシックスなどのお薬も骨を弱くします。運動不足、カルシウム・ビタミンDなどの摂取不足も骨粗鬆の原因になります。
骨粗鬆が心配な場合は、病院で骨塩量を計測しましょう。骨塩量が若い人と比較して70%未満になると骨粗鬆症と診断されます。骨折しやすい状態ですから、治療を開始します。この時、必ずレントゲン写真を撮影します。骨の変形があると正確な計測が出来ないからです。
近年、多くの骨粗鬆治療薬が開発されています。それぞれの特徴がありますから、担当の医師とよく相談して選択して下さい。
しかし、お薬はあくまで補助であり、バランスのとれた栄養摂取と適切な体操訓練が基本となります。自分の生活習慣にあった食生活、運動継続で骨折を予防しましょう。