アイキャッチ_リウマチ教室

第300回 人工関節手術支援ロボットについて

人工股関節置換術は股関節の痛みや機能障害を改善するために、傷んでいる股関節を人工関節に置き換える外科的手術です。股関節が傷んでいる原因として関節リウマチや変形性関節症、骨折後変形などが挙げられます。

人工股関節置換術においてインプラントをいかに正確に設置するかが、術後の関節機能の早期回復や長期成績において重要となります。当院では人工股関節・人工膝関節の手術において、手術支援ロボットを導入し、現在2台が稼働していますので紹介します。

 

高精度な手術が可能!
人工股関節置換術手術における人工関節手術支援ロボット

人工関節手術支援ロボット

人工股関節が正常な股関節の動きや安定性を得るためにはインプラントを正確な位置や角度で設置することが重要です。しかし関節の変形には個人差があり、術者の経験に頼ったインプラントの設置角度では結果に差がでることが課題でした。人工関節手術支援ロボットは患者さんそれぞれのCT画像の3次元データなどを基に術前計画を行い、計画どおりに骨を削り、インプラントの設置角度や深さなどを正確に行えることで、より精度の高い手術を安定して行うことが可能です。

人工関節手術支援ロボットとして現在当院では「ROSA Hipシステム」と「MAKOシステム」の2台を導入しています。

「ROSA Hipシステム」 (図1)とは

「ROSA」は2007年にフランスで開発された手術支援ロボットです。2021年8月に岡山県内で初めて当院に導入されました。本システムは人工股関節のカップとよばれる骨盤側のインプラントを設置する際に、計画している角度をロボットが制御・保持することで執刀医をサポートします(図2)。

大腿骨側のステムとよばれるインプラントを挿入し、股関節を整復した際にX線透視画像を本システムに読み込むことで、手術前と比べた脚長差を評価することができ個々の患者さんにあったサイズのインプラントを選択することができます。

図1. ROSA Hipシステム

図1. ROSA Hipシステム

図2. ROSA Hipシステムの術中画面

図2. ROSA Hipシステムの術中画面

「MAKOシステム」とは

「MAKOシステム」(図3)は2019年日本で初めて承認された整形外科におけるロボティックアーム手術支援システムです。当院では2023年12月に岡山県内で初めて導入しています。

MAKOシステムには骨を削る機器(リーマー)がロボットアームに取り付けられており、術前に計画された位置にリーマーを誘導して正確に骨を削ることができます。術前にCTなどによる3次元画像データをもとに治療計画を立て(図4)、計画にない部分にさしかかると自動で止まる仕組みになっていることから計画から外れた動きを制御できるため、神経や血管、靭帯などの関節周辺の組織を保護し、安全かつ正確な手術が可能になります(図5)。

図3. MAKOシステム

図3. MAKOシステム

図4. MAKOシステムの術前計画画像

図4. MAKOシステムの術前計画画像

図5. MAKOシステムを使用している様子

図5. MAKOシステムを使用している様子

 

人工関節手術支援ロボットのメリット・デメリット

手術支援ロボットは以下のメリット・デメリットがあります。

【メリット】

●精度の向上:ロボット支援システムは手術の際にインプラントの設置位置や角度において正確性が向上します。これにより人工関節の短期・長期の機能の安定性につながります。
●低侵襲手術への貢献:筋肉、靭帯を温存した低侵襲手術(MIS:エムアイエス)では手術における術野は狭くなる傾向がありますが、ロボット支援により追加切開を行わずに手術が可能となります。
●回復の促進:手術合併症のリスクが低減され、回復が早くなる可能性があります。
●再現性の向上:手術手技を高い精度で一定とすることができ、再現性の高い手術が可能となります。

【デメリット】

●手術時間の延長:ロボット支援手術では手術野の骨の位置情報を読み込ませる必要があり、短時間ですが手術時間が延長します(約10~20分)。
●トレーニングが必要:ロボット手術に習熟するためのトレーニングを受けた医師が操作する必要があります。
●導入している施設に限定:すべての病院やクリニックで利用できるわけではありませんが、当院では現在2台のロボットが稼働しています。

 

おわりに

人工股関節置換術においての正常な股関節の動きや、術後の安定性を得るためにはインプラントを正確な位置や角度で設置することが重要です。そのために近年手術支援ロボットを応用した手術が行われるようになっており、当院でも積極的に行っています。手術支援ロボットの導入で高い精度の手術が可能になり、関節リウマチや変形性関節症の患者さんの早期の機能回復につながっています。これらのロボット支援システムは今後さらに普及していくと考えられており、健康寿命の延伸につながると期待されています。

 

お話をお伺いしたのは・・・
岡山市立市民病院 整形外科 医師 小笠 滉貴

 

市民病院で20年以上にわたり行ってきたリウマチ教室。新型コロナウイルスの影響により、2020年7月よりWeb版・瓦版(院内での資料配布および掲示)と形態を変え、皆様のリウマチ療養にお役立ていただくべく、引き続き情報を発信しております。

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