市民病院で20年以上にわたり行ってきたリウマチ教室。新型コロナウイルスの影響により、2020年7月よりWeb版・瓦版(院内での資料配布および掲示)と形態を変え、皆様のリウマチ療養にお役立ていただくべく、引き続き情報を発信しております。
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第287回リウマチ教室 関節リウマチと靴
解説:岡山市立市民病院 リハビリテーション技術科 理学療法士 藤井 和敬
はじめに
靴は日常生活にとって欠かすことはできません。しかし、靴の大きさが足の実寸よりも大きく緩いことや、靴底が斜めになり、バランスが不安定など、不適切な靴は、歩行を含むさまざまな動作のトラブルの原因となります。今回は、理学療法士の視点から足の構造や障害、靴について解説させて頂きます。
足の骨構造とは?
足は26個の骨(種子骨を入れると28個)から成り立っています。距骨(きょこつ)と踵骨(しょうこつ)は後足部と言われ、距腿関節と構成し、下腿との連結を受け持ちます。距骨と踵骨の間には距骨下関節があり、足部全体のアライメントや機能に対して重要な役割を担います。
また距骨と踵骨は、舟状骨(しゅうじょうこつ)ならびに立方骨と横足根関節(ショパール関節)と呼ばれる関節を形成します。舟状骨の前方には内側・中間・外側楔状骨(けつじょうこつ)があり、舟状骨及び立方骨と合わせて中足部と呼ばれます。中足部と5本の中足骨は、足根中足関節(リスフラン関節)を形づくります。中足骨と基節骨はMTP関節を形成し、母趾は末節骨へ続き、2~5趾は中節骨及び末節骨へと続きます。母趾中足骨頭の足底側には、2つの種子骨(しゅしこつ)があります。
足部アーチの構造と機能とは?
足部アーチ構造は、歩行時の衝撃を吸収する重要な要素です。ショパール関節やリスフラン関節は、可動範囲は小さいですが関節痛が多く、柔軟な三次元的な動きに適合します。アーチを支える軟部組織は靱帯、筋、腱であり、特に足底腱膜、底側距踵靱帯、長足底靱帯、足部内在筋は、足部水平面の縦アーチを前後方向に支持する役割を受け持ちます。
足の縦と横のアーチはドーム状の構造を形成し、内側縦アーチ、外側縦アーチ、横アーチの3つからなります。立位時の足部への荷重は、足のアーチにより、足底に加わる荷重が広く分散させられます。
関節リウマチでよくみられる足部変形とは?
- 開張足(かいちょうそく)
中足趾節関節の滑膜炎により、関節包や中足骨を底側より支持結合している深横中足靱帯が伸びて、中足骨が横に広がり横アーチが平坦化します。
- 外反母趾(がいはんぼし)
母趾の主軸が外側に向かって曲がり、第1中足骨頭が内側に偏位した変形です。
- 槌趾(つちゆび)変形、鉤爪趾(かぎづめゆび)変形
槌趾変形は、第2から5趾近位指節間関節屈曲変形であり、遠位趾節間関節の肢位は問いません。鉤爪趾変形は第2から5趾近位指節関節屈曲にMTP関節の過伸展・背側脱臼が加わった変形であり、遠位趾節間関節の肢位は問いません。
- 扁平足(へんぺいそく)
縦アーチが低下したものを縦軸扁平足、横アーチが低下したものを横軸扁平足と呼びますが、単に扁平足という場合には縦アーチが低下した縦軸扁平足のことを指します。
関節リウマチによる病変と靴への介入とは?
靴とは衝撃から足部を保護するものです。関節リウマチ患者では、足部の変形がそれほど進行していない早期と、不可逆性の変形が認められる進行期以降で分けて考える必要があります。
早期には足底板を使用することにより痛みと足の機能に有意な改善が得られることが報告されており、市販靴に足底板を使用することで対応が可能です。一方で、進行期以降には関節の構築学的破綻が生じているため、靴の概念を念頭に置きながら、足部の可動性と固定性のバランスを考慮する必要があります。
変形が進行し骨構造が不可逆性になると、足底板に加え、市販靴の種類の選択がさらに必要となり、靴型装具の検討をしなければならない場合もあります。そのため、変形が生じる前のできるだけ早期より介入する必要があります。
靴選びのポイントは?
関節リウマチ患者の足と靴は密接な関係があり、2015年のRA友の会の調査においても8割以上の方が靴に悩みを抱えていました。靴を選ぶ際には、一般的に足長差(足長:踵からつま先までの長さ)を10~15mmとすることが推奨されています。サイズの合った靴を選ぶことで、踵から中足部までの固定性が得られ、前足部の遊びを抑制し、開張足を防止することができるため、適切な靴の着用が求められます。
その他、靴を履く際には、靴紐やベルトで足の甲の部分をしっかりと締めることで、開張足や扁平足があってもアーチが補正され、正常な足の形に近づけることができます。手指の変形やリーチ動作の問題で靴の脱ぎ履きが困難な場合は、靴のベルトにリングを付け、リーチャーで対応できる場合もあります。
おわりに
関節リウマチ患者の靴選びにおいては、足部障害の程度とともに靴の構造と機能を念頭に置きながら、関節の構築学的破綻が認められる足部については、可動性と固定性のバランスを考慮します。また、関節リウマチの足部障害は多種多様であり、多関節への影響や生活様式も考慮して介入する必要があります。
適切な靴選びも大切ですが、その前に靴を履く際は「踵から合わせる」「靴紐を締める」など「正しく靴を履く」ことを習慣化させることも大切です。
参考文献
- 増田陽子 他:足の構造・機能障害に対する靴の処方.理学療法37巻7号.2020
- 坂口顕:足の構造・機能障害と靴 .理学療法37巻7号.2020
- 祖川稔史:関節リウマチ患者の足の障害と靴.理学療法37巻7号.2020
お話をお伺いしたのは・・・
岡山市立市民病院 リハビリテーション技術科 理学療法士 藤井 和敬
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