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第298回 災害と抗リウマチ薬

市民病院で20年以上にわたり行ってきたリウマチ教室。新型コロナウイルスの影響により、2020年7月よりWeb版・瓦版(院内での資料配布および掲示)と形態を変え、皆様のリウマチ療養にお役立ていただくべく、引き続き情報を発信しております。

もしものとき
症状を悪化させないために

●はじめに

ようやく夏も盛りを過ぎて、ますますお元気にお暮らしのことと存じます。今回は「災害と抗リウマチ薬」というテーマについてです。

災害はいつ訪れるか予測できません。近年は、地震だけでなく台風や集中豪雨などによって、河川の氾濫や土砂崩れなども多発しています。

万が一、災害が訪れた場合にも、関節リウマチの症状をなるべく悪化させないために、個人個人が自身の薬の情報を正しく把握した上で対策をしておくことが重要です。

●関節リウマチの患者さんが災害時に困ること

関節リウマチの患者さんは薬を服用されている方が多いかと思いますが、もしも災害が起こった場合には「薬を持ち出すことができなかった」あるいは「数日で薬がきれてしまった」といった状況に陥る可能性があります。関節リウマチの薬の中には、急な中断により症状が悪化してしまうものもありますので十分に注意する必要があります。

●災害時にリウマチの薬がきれたら・・・

ステロイド薬

プレドニン®(プレドニゾロン)、メドロール®、デカドロン®、リンデロン®など

ステロイド薬を服用中の方は、薬を中止すると、症状が悪くなる可能性があります。

特に長期に服用している方が突然薬を中止すると、身体がだるくなったり、熱がでたり、ひどくなると血圧が下がったりします。

このため、ステロイド薬の中止はしないようにしましょう。また、ステロイドは一般の薬局で購買をすることはできず、医師の処方箋が必要なお薬ですので、手元にお薬がない方は最寄りの災害時に対応してくれる病院で処方を受けてください。

 

抗リウマチ薬

リウマトレックス®(メトトレキサート)、プログラフ®(タクロリムス)、アザルフィジン®(サラゾスルファピリジン)、リマチル®(ブシラミン)など

服用をやめてもすぐに症状が悪くなることはありません。一般的には、2週間以内に服用が再開できれば症状が増悪することはないといわれています。

 

生物学的製剤

レミケード®(インフリキシマブBS)、エンブレル®(エタネルセプトBS)、アクテムラ®、ヒュミラ®(アダリムマブBS)、オレンシア®、シンポニー®、シムジア®、ケブザラ®、ナノゾラ®

関節リウマチの治療に用いられる生物学的製剤は、薬によって投与方法や投与間隔が異なりますが、たとえ中止しても基本的にはすぐに症状が増悪することはありません。

アクテムラ、オレンシアの点滴製剤は、効果は一般的に4週間持続します。レミケード®(インフリキシマブBS)の効果は6~8週間持続します。皮下注射のエンブレル®(エタネルセプトBS)の効果持続は3~7日、ヒュミラ®(アダリムマブBS)では14日程度です。他にも様々な生物学的製剤が発売されていますが、ご自身の「薬の名前」と「前回の投与日」や「次回の投与日」を把握しておくと安心かもしれません。

 

備えがあれば安心

災害時に備えて準備しておくこと

①予備の治療薬

上記のように、薬によっては服薬を中止してしまうと、関節痛が悪化するだけでなく動けなくなったりすることもあります。また、大きな災害が発生した場合、病院で処方される薬が制限される場合もあります。可能であれば非常用に1週間程度の予備薬を非常用持ち出しバッグなどに準備しておきましょう。

ただし、保存方法には注意が必要です。内服薬の多くは、室温(1~30℃)で保存していれば、成分の残存率に問題はありません。しかし、一包化調剤などでPTPシートから取り出した薬は、湿度の影響を強く受ける薬剤もありますので乾燥剤などと一緒に保管することをおすすめします。

また、皮下注射のお薬は冷所(2~8℃)で保管しなければならないため非常用持ち出しバッグに普段から入れておくのは難しいかもしれません。

イラスト:非常時のリウマチの薬

②お薬手帳のコピー

大きな災害が発生した場合、かかりつけの医療機関を受診できなかったり、薬の供給が不安定になり同じ効果のある他の薬に変更される場合があります。このような場合にお薬手帳の情報があると、薬の内容をスムーズに把握することができ、適切な処方をしてもらうことができます。

外出時にも常にお薬手帳が手元にあるのが理想ですが、難しい場合はお薬手帳のコピーを財布や非常用持ち出しバッグに入れておきましょう。スマートフォンや携帯電話でお薬手帳のページの写真を撮っておくのもいいかもしれません。情報を定期的に更新するのも忘れないようにしましょう。

 

参考文献

  • 厚生労働科学研究費補助金 免疫・アレルギー疾患政策研究事業「ライフステージに応じた関節リウマチ患者支援に関する研究」研究班編 メディカルスタッフのためのライフステージに応じた関節リウマチ患者支援ガイド
  • 日本リウマチ学会 東北関東大地震被災者診療に携わる医師の方々へ ―リウマチ・膠原病診療10箇条―

 

お話をお伺いしたのは・・・
岡山市立市民病院 薬剤師
竹下 和輝

 

※役職は掲載時のものです。変更になっている場合がありますがご了承ください。

 

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