アイキャッチ_リウマチ教室

第280回 TNF阻害薬の進化

各薬剤の違い

TNF阻害薬の特徴を表のようにまとめました。

図:TNF阻害薬の特徴

TNF製剤の開発当初は同種であるヒトTNFに対する抗体を製造することが難しく、完全マウス抗体が開発されましたが、アナフィラキシーなどの強いアレルギー反応を起こすため製剤化には至りませんでした。
その欠点を補うためにTNFに反応する部分だけをマウス遺伝子に依存するキメラ抗体であるインフリキシマブが開発、発売されました。インフリキシマブの使用時はアレルギー反応などを抑えるためにメトトレキサートの併用が必須です。

次に発売されたエタネルセプトは他の製剤と異なり、ヒトのTNF受容体を利用した製剤です。この受容体製剤には、完全にヒト由来の成分のためアレルギーなどが起きにくい、受容体なのでTNFα以外の伝達物質を抑えることができるという2つのメリットがあります。

その後、抗体製造技術の向上によりアダリムマブ、ゴリムマブといった完全ヒト型製剤が使われるようになり、抗体製剤においてメトトレキサートの併用が必須ではなくなりました。

セルトリズマブ・ペゴルやオゾラリズマブでは、より炎症部位に届きやすくするためにFcという部分をなくし小型化した製剤になりました。Fcがなくなると薬の安定性が失われ体内の薬剤が急激に分解されるため、その欠点を補うために、前者はポリエチレングリコールに、後者は体内のアルブミンに結合させることによって、いずれも安定性を確保しています。またFcをなくすことで、アレルギー反応の減少、抗薬物抗体(薬剤の効きを悪くする物質)の減少、胎児や母乳への薬剤移行を少なくするといった効果もあります。

投与方法としては、場所と時間の確保を要する点滴から皮下注射へ移行しています。皮下注射のメリットは投与の簡便さですが、シリンジやペンに含まれる薬剤は一定量で決まっており、体重が軽い方が効きやすいとされています。点滴製剤では体重に応じて用量の調整ができるため、体格が大きい方では点滴の方が効きやすいとされています。

 

TNF製剤の長所と短所

TNF阻害薬の最大の長所は、効果発現の速さにあります。

臨床試験では治療開始後3-7日で有効性を証明されている薬剤もあります。即効性については、基本的にはどの薬剤も大きな差はなく、3ヵ月程で効果が得られるかどうかの判定ができるとされています。

関節の破壊を防止する効果に関しては、他のしくみをもつ生物学的製剤でも証明されており、基本的に疾患活動性を十分に抑えることでその効果が得られると考えられています。しかし、TNF阻害薬では疾患活動性が十分に抑えられない場合でも関節破壊をある程度抑制できることが報告されており、関節局所においてTNFには関節破壊に特別な働きがあると考えられています。

またTNF阻害薬には関節リウマチのみならず、血管の炎症を抑えることによって、関節リウマチ患者さんの狭心症や心筋梗塞などの心血管イベントを減少させる効果があることが知られています。

問題点としては、感染症のリスクと薬剤費の高さが挙げられます。感染症では肺炎などの細菌感染症、結核、ニューモシスチス肺炎がありますが、これらは他のしくみをもつ生物学的製剤でも同様に問題になり、リスクもほとんど同じです。導入時のリスク因子を検討して必要な対策を行うことが必要です。

感染のリスクを減らす一つの方法として、インフルエンザ、コロナ、肺炎球菌へのワクチン接種があります。また、ニューモシスチス肺炎のリスクが高い場合(ステロイドを併用している、既に肺疾患がある、65歳以上のいずれか2つ以上が該当)には抗菌剤の予防投与を行います。また、薬剤費抑制の一つの方法でもありますが、生物学的製剤で有効性が十分に得られた場合には、薬剤の減量や投与間隔の延長を考慮されます。

薬剤費を抑える方法としては、バイオシミラーといわれる後発品の導入や切り替えがあります。インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブには既にバイオシミラーがあり、多くの方が使用されています。薬価は先発品の約6割で、通常の内服薬等の後発品と異なり、バイオシミラーでは発売に先駆けて有効性と安全性を検証することが義務付けられていますので、比較的安心して使用していただけます。

 

出典および参考資料

  • Takeuchi T, et al.: Arthritis Rheum. 2022 Jun 21. doi: 10.1002/art.42273.
  • Atsumi T, et al. Ann Rheum Dis 2016; 75: 75 83.
  • Smolen,JS, et al. Arthritis Rheum 2005; 52: 1020-1030.
  • Jacobsson LTH, et al. J Rheumtol 2005; 32: 1213.

 

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