産婦人科顧問の平松 祐司先生に、子宮筋腫・子宮腺筋症について教えていただきました。
「子宮筋腫」「子宮腺筋症」とは、どのような疾患なのでしょうか?
子宮筋腫、子宮腺筋症とも、ちょうど妊娠・出産する30代~40代の女性によく発生する良性腫瘍です。子宮筋腫は最も多い婦人科腫瘍で成人女性の5名に1人、子宮腺筋症・子宮内膜症は10人に1名くらいの頻度で発生する疾患です。
どのような症状がでるのでしょうか?
「子宮筋腫」では、子宮のどこにできるかにより、症状が多少異なります。代表的な症状としては、過多月経、月経困難症、貧血、大きくなれば周囲の臓器を圧迫し、便秘、頻尿、腰痛などが出現します。また、不妊症や流産を繰り返す原因にもなります。
「子宮腺筋症」でも、月経困難症、過多月経が代表的な症状ですが、次第に激しくなってくるのが特徴です。また、卵巣にチョコレート嚢胞ができ、癒着が起こってくるため、慢性的な疼痛や性交障害、不妊症の原因にもなります。
診断はどのようにしてするのでしょうか?
症状の問診、外診・内診、超音波検査、そしてMRI検査を用いて行います。特にMRIが有用で、部位、大きさ、個数、変性の有無などがよくわかります。子宮筋腫は境界明瞭な腫瘤(しゅりゅう)、子宮腺筋症は境界不鮮明な腫瘤として認識することができます。
血液検査は、子宮腺筋症が疑われる場合は“CA125”、子宮肉腫の場合は“LDH”などの値に注目します。
以前から、お腹に堅いしこりがあるのを感じても肥満やメタボリックシンドロームだと自己判断し、非常に大きくなってから紹介されてくる若い女性が多いのも現状です。お腹に堅いしこりができる肥満はありませんので、早めに受診するようにしてください。
治療法はどのようなものがあるのでしょうか?
子宮筋腫・子宮腺筋症とも、治療法には、経過観察、薬物療法、手術療法、子宮動脈塞栓術などがあり、患者さんの年齢、挙児希望(今後赤ちゃんがほしいかどうか)、発生部位、大きさなどを考慮して、最も適切な治療法を提供しています。
閉経するとどちらの疾患も進行しないので、閉経近くの女性ではホルモン剤で閉経を早める方法、症状の強い大きな筋腫でこれから妊娠予定のない女性では子宮全摘術を行います。また、これから赤ちゃんを産みたい女性に大きな筋腫や腺筋症が見つかれば、その部分のみ切除する核出術を行います。
子宮筋腫、子宮腺筋症、どちらも頻度が高く、妊娠・出産年齢の女性に発生するということなので、妊娠との関係についてもう少し詳しく教えていただけますか?
子宮筋腫では、子宮内腔に発生する粘膜下筋腫は小さいものでも、不妊や流産の原因になります。
また、子宮筋層内筋腫では5~6cm以上のものが問題になりますので、妊娠前にきちんと核出術をし、その後妊娠を考えるのがよいと思います。私の所へはこれまで仙台から沖縄まで、他病院で手術が難しいと言われた患者さんが来られ、大きさでは妊娠10ヶ月の大きさまでになった6.4Kg の筋腫、数では237個まで核出してあげ、多くの患者さんがその後に妊娠・出産されています。
また、子宮腺筋症で不妊・流産を起こしている患者さんには、子宮腺筋症核出術を行います。この手術は、はっきりした境界のないものをくりぬく手術であり、正常と異常の間を見極めるために手の触覚が重要で、また非常に複雑な縫合をするため、開腹での手術を受けられることをお勧めします。
子宮筋腫をもったまま妊娠したらどうなるのでしょうか?
切迫流産や切迫早産での長期入院、流産・早産、筋腫の変性により激しい疼痛、赤ちゃんの胎位異常、帝王切開の頻度が増す、お産の時に大出血する、帝王切開するにしても筋腫があり難しくなるなど多くのデメリットがあります。
私はこれまで手術適応があれば、妊娠中の筋腫核出術も100例以上の症例で行ってきました。非常に難しい手術ですが、術後は84%の患者さんは術前にあった症状が消失し、普通の生活が送れるようになります。
また、帝王切開時に筋腫があった場合、赤ちゃんだけ出して、筋腫はそのまま残しておく病院が多いのですが、私は全例でその時に同時にきれいにくりぬいてあげる手術をしています。
その他、子宮筋腫、子宮腺筋症について気をつけることがあれば教えて頂けますか?
- まずは、お腹に堅いしこりがあるのを感じたら(肥満ではないので)早めに受診すること
- あまり大きくない筋腫の核出術は腹腔鏡手術でおこなうことが多くなりましたが、筋腫を切り刻んで小さな穴から出すため、切り刻んだ筋腫の破片がお腹の中に残ると、腹膜などに付着し血管が入り大きな大変な筋腫を作ることがあるので、そのあたりも考慮して手術をうけること
- 子宮動脈塞栓術で治療した後に月経がなくなることがあるので、赤ちゃんを産みたい人はこの治療は受けないこと
- 閉経前後から、子宮があったら子宮肉腫の可能性があるため、精密検査をうけること
ポイント
岡山市立市民病院では妊娠中、分娩時の筋腫まで全ての筋腫に責任もって対応していますので、子宮筋腫や子宮腺筋症で不妊、流産でお悩みの方、また妊娠中に筋腫が見つかり不安をお持ちの方は、ぜひ一度相談にお越しください。
お話をお伺いしたのは・・・
岡山市立市民病院 産婦人科 医師 平松 祐司(ひらまつ ゆうじ)
※役職は掲載時のものです。変更になっている場合がありますがご了承ください。