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第313回 関節リウマチ患者さんに対する手術ケア

関節リウマチでは、痛みや炎症をやわらげたり、関節の変形、機能障害を改善することなどを目的として手術をおこなう場合があります。手術する関節の場所や関節破壊の状況、変形の具合、日常生活における障害の程度、患者さんの希望をふまえながらそれぞれの患者さんの状況にあった手術の方法が選択されます。薬物療法の状況によっても、目的、手術方法、手術をおこなうタイミングが患者さんそれぞれで異なります。

手術の種類

手術法は大きく分けて
1.滑膜切除術 2.人工関節置換術 3.関節固定術 4.関節形成術 5.腱の形成術の5種類があります。
関節ごとに施行される術式は異なるため、担当医と十分相談して行うようにして下さい。

 


手術を受けるときに大切な5つのポイント

手術前後における関節リウマチの薬物療法のすすめ方と感染予防、継続的なリハビリテーションの実施が手術に関連した合併症の予防と手術後の早い回復のために大切なポイントです。

 

1.手術前後の抗リウマチ薬の扱い

関節リウマチの治療薬は免疫抑制作用があるため、手術した部位の感染症の危険性を減らすために手術前後の一定期間に服薬・投与を休止する場合があります。休薬期間は薬剤によって違いがあります。休薬が適切にできていなかった場合、休薬期間が不足している場合は手術が延期になることもあります。また、必要以上に長く休薬した場合、関節リウマチが急激に悪化することもあります。

以下に一般的な取り扱いを示しますが、手術の内容や病状によって個別に決定します。担当医や看護師、薬剤師の指示に従って行ってください。

また、手術直前に抗リウマチ薬を変更することも避けるべきです。万が一、薬剤の副作用や、リウマチの悪化を生じた場合、手術が安全に行えないだけでなく、開始したばかりの薬剤を手術のために休薬することも望ましくありません。薬剤の調整と手術のタイミングについて、担当医とよく相談しておきましょう。

手術前の休薬が不要な薬剤

通常の経口リウマチ薬[メトトレキサート(リウマトレックス)、サラゾスルファピリジン(アザルフィジン)、ブシラミン(リマチル)、タクロリムス(プログラフ)など]は手術部位の感染症などにほとんど影響しないため服用を継続します。
とくにステロイドは手術当日まで服用を継続します。

イラスト:手術

 

手術前に休薬が必要な薬剤

生物学的製剤は術前に休薬期間を設定し、体内の血中濃度が低下してから手術を行います。

JAK阻害薬

JAK阻害薬[トファシチニブ(ゼルヤンツ)、バリシチニブ(オルミエント)、ペフィシチ二ブ(スマイラフ)、ウパダシチニブ(リンヴォック)、フィルゴチニブ(ジセレカ) ]については現在、休薬期間について定まった基準はありません。

効果が持続する期間が短いため、数日間の休薬でも関節リウマチが悪化する可能性があります。そのため、内服を続けたまま手術を行う事もあります。担当医の指示に従って下さい。

 

2.感染予防

手術前は、うがいや手洗いといった基本的な感染予防を怠らないことはもちろん、虫歯や水虫などの感染症を治療しておくことも大切です。また、手足の手術をする患者さんは爪を清潔にし、爪切りをして、指の間などをしっかりと洗っておきましょう。とくに膝が曲がりにくかったりして足に手が届かない方、足趾や手指の変形が強く指の間が洗いにくい方は手術前の一定期間、特に念入りに洗浄しておくようにしてください。

イラスト:手洗い

保湿などのスキンケアも重要です。人工関節置換術を受ける患者さんは、手術後も以上のようなケアを心がけて下さい。怪我にも注意しましょう。

 

3.禁煙について

喫煙は傷の治りにくさ、術後の肺炎発症のリスクなど、手術の安全性に大きな悪影響があります。最低でも術前4週間前より必ず禁煙してください。手術の安全性を高め、合併症を予防するために大切なことです。禁煙できていない場合は、手術を中止・延期します。

 

4.ワクチンについて

手術前は、身体への負担を少なくして安全に手術を行うために各種のワクチン接種を控えてください。手術直前にワクチンを投与すると、発熱などがあった場合に副反応との区別が難しくなります。また、体への負担が大きい手術の直後もワクチン投与を避けるようにしましょう。手術前後数週間以内のワクチン投与については、必ず整形外科担当医と、ワクチン投与の担当医や看護師に確認するようにしてください。

 

5.リハビリ

手術後は、手術翌日からリハビリ再開となることが多く、医師から禁止動作や運動制限について指示がある場合はそれに従って行います。例えば、人工関節置換術後の脱臼をしやすい動作・姿勢について指導を受けたり、免荷(体重をかけないようにすること)の指示がある場合はその間の移動方法について指導をうけたりします。

これらは入院中に医療者から説明があるため心配しすぎる必要はありません。手術後は重いものを持ったり激しい運動をしたり等で、手術した部位に負担をかけすぎないように注意して生活しますが、心配だからと安静にしすぎると、本来期待できる術後の機能が獲得できないことになります。

リハビリは入院中だけでなく、退院後も通院リハビリや自主訓練により長期間・継続的に行うことが大切です。


関節リウマチ患者さんが安心して手術を受けられるように、お薬や感染予防、禁煙、ワクチン、リハビリなどを一緒に準備していきます。みんなで力を合わせて、安全で元気な回復を目指しましょう。

岡山市立市民病院 看護師 西岡 侑果

 

参考文献

  • 阿部麻美:整形外科看護,16(10):1042-1052,2011
  • 小橋靖子:整形外科看護,25(9):77-81,2020
  • 福田芽森 他:臨床整形外科,53(10):908-913,2018
  • 福田修治:インフェクションコントロール,28(4):382-385,2019
  • 稲垣喜三:日本臨床麻酔学会誌,37(5):674-680,2017

 

お話をお伺いしたのは・・・
岡山市立市民病院 看護師 西岡 侑果

 

市民病院で20年以上にわたり行ってきたリウマチ教室。新型コロナウイルスの影響により、2020年7月よりWeb版・瓦版(院内での資料配布および掲示)と形態を変え、皆様のリウマチ療養にお役立ていただくべく、引き続き情報を発信しております。

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