アイキャッチ_リウマチ教室

第309回 口腔ケアと歯みがき粉

口腔の健康は、糖尿病や心疾患、関節リウマチなどの全身疾患と深く関わっていることが知られ、近年、口腔ケアへの関心も高まっています。関節リウマチにおいては約20年前に歯周病との関係が初めて報告されました。

今回は、毎日の歯みがきで何気なく使っている「歯みがき粉」に注目。歯みがき粉の「裏側」の成分や効果の基礎を知ることをきっかけに、自分に合ったケアで口腔の健康を守り、関節リウマチと上手に付き合う第一歩にしましょう。

 

見たことある?
いつも使っている歯みがき粉の「裏側」

歯みがき粉の成分と働き

むし歯や歯周病の原因となる歯垢(プラーク)や、茶しぶ・コーヒー・たばこのヤニなどの着色汚れ(ステイン)は、うがいだけでは落とせません。こうした汚れを取りやすくするために、歯みがき粉を使ったブラッシングが効果的です。歯みがき粉は、汚れの除去に加え、歯を白くする、口臭を防ぐといった働きがあり、薬用成分によってむし歯や歯周病の予防効果も期待できます。

主な成分名 働き
基本成分
  • リン酸水素カルシウム
  • 水酸化アルミニウム
  • シリカ(無水ケイ酸・含水ケイ酸)
  • 炭酸カルシウム
歯の表面を傷つけずに、歯垢やステインなどの歯の表面の汚れを落とす
  • グリセリン
  • ソルビトール
歯みがき粉に適度の湿り気を与え、可塑性(クリーム状の形)を与える
  • ラウリル硫酸ナトリウム
口中に歯みがき粉を拡散させ、口腔内を洗浄し、汚れの除去を助ける
  • カルボキシメチルセルロースナトリウム
  • アルギン酸ナトリウム
  • カラギーナン
粉体と液体成分とを結合させ、保型性を与えたり、適度の粘性を与える
  • サッカリンナトリウム
  • メントール
  • ミント類
  • 香料
香味の調和を図る
爽快感と香りをつけ、歯磨剤を使いやすくし、口中をさっぱりさせる
  • 安息香酸ナトリウム
変質を防ぐ

 

主な成分名 働き
薬用成分
  • モノフルオロリン酸ナトリウム
  • フッ化ナトリウム
  • 薬用ハイドロキシアパタイト
むし歯を予防する
※6歳未満の小さなお子さまには1,000ppm以下の歯みがき粉をお使いください
  • 塩化セチルピリジニウム
  • 塩化ベンザルコニウム
  • イソプロピルメチルフェノール
歯肉炎を予防する
  • 塩酸クロルヘキシジン
  • トラネキサム酸
  • グリチルリチン酸ジカリウム
  • β-グリチルレチン酸
  • ビタミンE
  • 塩化ナトリウム
  • トウキ軟エキス
  • オウバクエキス
  • ヒノキチオール
歯周病(歯肉炎・歯周炎)を予防する
  • デキストラナーゼ
歯垢を分解する
  • ポリリン酸ナトリウム
  • ゼオライト
  • リン酸塩
歯石の沈着を防ぐ
  • 乳酸アルミニウム
  • 硝酸カリウム
歯がしみるのを防ぐ
  • ポリエチレングリコール
タバコのヤニをとる

 

歯みがき粉の安全性と薬機法

市販の歯みがき粉は、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」に基づいて販売されています。薬機法は、医薬品や医療機器、化粧品などの品質・有効性・安全性を確保し、国民の健康を守ることを目的とした法律です。歯みがき粉もその内容や効果によって以下のように分類されます。

化粧品:基本成分で構成されており、物理的に歯の汚れを落とし、歯の表面を綺麗にすること等が認められているもの(一般的な歯みがき粉)

医薬部外品:基本成分に加えて、薬用成分が1つ以上含まれており、薬理的な効能効果を標榜することができるもの(パッケージに「薬用」と表示)

医薬品:治療効果が明確に認められたもの

歯磨き粉の疑問

Q1.歯みがき粉でブラッシングすることで、歯を摩耗するのでは?
歯みがき粉の安全性は国際規格(ISO)でも十分に配慮されています。これまでの試験結果からも、歯みがき粉を使って約200g程度(歯ブラシの毛先の形が広がらない程度の力)の軽い力で適切にブラッシングしていれば、歯がすり減る心配はほとんどないとされています。

Q2.歯みがき粉の甘みのむし歯への影響は?
歯みがき粉の甘さは、サッカリンナトリウムやキシリトールなどの甘味料によるもので、砂糖は含まれていません。また、グリセリンやソルビトール、香料なども苦味や渋味をやわらげ、毎日の歯みがきを快適にするために使われています。これらの成分はむし歯の原因にはなりません。

Q3.歯石は取れますか?
歯石は、歯垢が硬く石のように固まったもので、歯みがき粉やブラッシングだけでは取り除けません。歯科医院で専門的に除去してもらう必要があります。

 

図:プラーク

図:ステイン、歯石

 

歯みがき粉をより効果的に使用したブラッシングのポイント

ブラッシングのポイントは、歯ブラシを濡らさないことです。

歯ブラシを濡らすと泡立ちがよくなり、しっかり磨けているように錯覚してしまうため、磨き残しが出やすくなります。また、泡が多いと早く吐き出したくなり、ブラッシングを途中でやめてしまうことで、歯みがき粉の有効成分が十分に働く前に流されてしまいます。より効果的に歯みがき粉を使うには、乾いた歯ブラシでの使用がおすすめです。

 

おわりに

お口の健康やエチケットを守るためには、丁寧に1本ずつ、適切な力でブラッシングすることが大切です。そのために、いつも何気なく使っている歯みがき粉が、実はとても重要な役割を果たしていることに気づいていただけたのではないでしょうか。

もちろん、定期的な歯科受診でむし歯や歯周病のチェックを受けたり、日々の歯みがきでは落としきれない汚れを除去したり、あなたに合ったブラッシング方法を知ることも大切です。まずは今日のブラッシングタイムに、歯みがき粉の裏側にある成分表示をチェックしてみませんか?

岡山市立市民病院 リハビリテーション技術科 歯科衛生士 中山 良子

 

参考文献

  • 日本歯磨工業会. 歯みがきで心と体をすこやかに:お口のセルフケアハンドブック. 東京: 日本歯磨工業会; 2021.
  • 小林 哲夫, 吉江 弘正. ミニ・レビュー 歯周炎と関節リウマチ ―関連性と臨床対応―. 日本歯周病学会会誌. 2012;54(1):11–19. doi:10.2329/perio.54.11

 

お話をお伺いしたのは・・・
岡山市立市民病院 リハビリテーション技術科 歯科衛生士 中山 良子

 

市民病院で20年以上にわたり行ってきたリウマチ教室。新型コロナウイルスの影響により、2020年7月よりWeb版・瓦版(院内での資料配布および掲示)と形態を変え、皆様のリウマチ療養にお役立ていただくべく、引き続き情報を発信しております。

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