関節リウマチでは、関節の痛みやこわばりによって歯みがきがしづらくなったり、顎の動かしにくさから食べにくさを感じたりすることがあります。また、お薬の影響や病気に伴う体調の変化によって、お口の乾燥や違和感が生じることもあります。
このように、関節リウマチと「お口の健康」には、実は深い関係があります。こうした変化は、一つひとつは小さくても、積み重なることでお口の機能低下につながることがあります。こうしたお口の“ささいな衰え”を「オーラルフレイル」と呼びます(第297回「その兆候を見逃さないで オーラルフレイルとは?」参照)。オーラルフレイルをそのまま放置すると、「口腔機能低下症」へ進行する可能性があります。
一方で、オーラルフレイルの段階で気づき、適切なケアやトレーニングを行うことで、健口を取り戻せる可能性があります。今回は、病気として診断される「口腔機能低下症」をテーマに、関節リウマチとお口の健康の関係、そしてオーラルフレイルの段階で気づくことの大切さや、日常生活でできる予防のポイントについてご紹介します。
「健口」から「口腔機能低下症」までのお口の変化
お口の機能は、健康な状態から突然病気や機能障害になるわけではありません。
「健口」から「オーラルフレイル」、そして「口腔機能低下症」へと、少しずつ変化していきます。日々の小さな衰えを見逃さず、早めに気づくことが大切です。
※「健口(けんこう)」は、「健康」と「口」を組み合わせた造語です。お口の健康が全身の健康につながるという思いが込められています。
| 段 階 | お口の状態 | 特徴と対策 |
|---|---|---|
| ① 健口(けんこう) | 何でも美味しく食べられ、会話もスムーズな健康な状態。 | 毎日の丁寧なセルフケアと定期健診を続けましょう。 |
| ② オーラルフレイル | 「食べこぼし」「軽いむせ」「口の乾燥」「滑舌の低下」など、お口に関わる“軽微な衰え”が重なった状態。 | 【ここで気づくことが大切!】 この段階なら、健口を取り戻せる可能性があります。 早めに気づき、適切なケアと、お口の機能を改善するためのトレーニングや生活習慣の見直しを始めましょう。 |
| ③ 口腔機能低下症 | お口の衰えが進行し、複数の機能低下が認められる治療や専門的な対応が必要となる病気です | 噛みにくい・飲み込みにくい状態が進行し、食事が十分にとれなくなることで、低栄養や全身の虚弱(フレイル)につながることがあります。歯科での適切な管理や症状に合ったトレーニングが大切です。 |
特に関節リウマチ患者さんでは、手指の痛みやこわばりによって歯ブラシが握りにくくなったり、お薬の影響やシェーグレン症候群によるお口の乾燥がみられたりすることで、オーラルフレイルが進行しやすい傾向があります。
また、「食べにくい」「飲み込みにくい」「話しにくい」といった変化が、関節リウマチによる全身状態の変化によるものなのか、お口の機能低下によるものなのか判断しにくい場合があることも特徴です。
歯科医院で受ける口腔機能低下症の検査と診断基準
「口腔機能低下症」かどうかは、歯科医院で専用の機器や質問票を用いた精密な検査によって診断されます。以下の7つの評価項目のうち、3つ以上項目が該当すると「口腔機能低下症」と診断されます。
❶口腔衛生状態不良(お口の汚れ)
舌のコケ(舌苔)の付着度合いなどを目で見て、または細菌カウンターで検査します。
❷口腔乾燥(お口の乾燥)
唾液の量を測るシートや、お口の粘膜の湿り具合を測る機械で潤いをチェックします。
❸咬合力低下(噛む力の低下)
圧力を感知する専用のシートを噛んでもらい、全体の噛む力を測定します(または残っている歯の数で評価)。
❹口腔粘膜・唇舌運動機能低下(お口の動きの低下)
「パ・タ・カ」の音をそれぞれ1秒間に何回きれいに発音できるかを測定し、唇や舌の滑らかな動きを調べます。
❺舌圧低下(舌の力の低下)
風船のついた小さな器具を口に入れ、舌を上あごに押しつぶす力を測定します。
➏咀嚼機能低下(噛む機能の低下)
検査用のグミを何回か噛んでもらい、どれくらい細かく噛み砕けたかを判定します。
❼嚥下機能低下(飲み込む機能の低下)
一度に飲み込める水の量や、質問票(むせや引っかかりの有無)を用いて、飲み込みの力を評価します。
お口の機能の問題は、
高齢者だけの問題ではない?
お口の機能の問題は、高齢者の老化現象と思われがちですが、実は今、「十分に噛めない・飲み込めない子どもたち」が増えており、2018年からは「口腔機能発達不全症」という病名で保険診療の対象にもなっています。
高齢者の口腔機能低下症(獲得したものの“喪失”)
高齢者の場合は、かつては当たり前にできていた機能が、加齢や歯の喪失、筋力低下によって「衰えていく(退行)」状態です。
小児の口腔機能発達不全症(そもそも“未獲得”)
子どもの場合は、成長の過程で正しく食べる・話す・呼吸する機能が「十分に育っていない(未獲得)」状態を指します。つまり、お口の正しい使い方を身につける機会が十分でないまま成長しているのです。
今日からできる!お口を健やかに保つコツ
- お口の中を清潔に保ちましょう。(入れ歯の清掃も忘れずに)
- 手の痛みで歯ブラシが持ちにくいときは、柄にスポンジを巻いて太くしたり、電動歯ブラシを活用したりすると、歯みがきの負担を軽減できます。
- 早口言葉や発音の練習で、舌や唇をしっかり動かしましょう。
- 家族や友人との会話を楽しみ、お口を動かす機会を増やしましょう。
- 唾液腺マッサージ(耳の下やあごの下をやさしくマッサージ)で、唾液の分泌を促し、お口の乾燥を防ぎましょう。
- お口の乾燥が気になるときは、口腔保湿剤(ジェル・スプレー・洗口液など)を活用しましょう。
- 入れ歯の調整やむし歯・歯周病の治療を受け、しっかり噛めるお口を保ちましょう。
おわりに
お口の健康は、毎日の「食べる」「話す」「笑う」を支え、全身の健康にもつながります。関節リウマチの治療とあわせて、丁寧なセルフケアとかかりつけ歯科での定期健診を受け、お口の小さな変化を見逃さないことが大切です。いつまでも自分の口で「食べる」「話す」「笑う」を楽しめる「健口(けんこう)」を目指しましょう。
岡山市立市民病院 リハビリテーション技術科 歯科衛生士 中山 良子
参考文献
- 一般社団法人 日本老年歯科医学会「口腔機能低下症 保険診療における検査と診断 Ver.5.0」(2026)
- 一般社団法人 日本老年歯科医学会「口腔機能低下症 患者さん配布用資料」
お話をお伺いしたのは・・・
岡山市立市民病院 リハビリテーション技術科 歯科衛生士 中山 良子
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