アイキャッチ_リウマチ教室

第312回 関節リウマチと「肺」の意外な関係

はじめに

関節リウマチは、主に関節の炎症と痛みで知られる病気ですが、実は肺をはじめとする全身の臓器にも影響を及ぼすことがあります。その中でも特に注意が必要な合併症が間質性肺炎です。

 

見逃せない合併症、間質性肺炎を知る

間質性肺炎とは何か?

肺の構造を支える「間質」で生じる炎症
間質性肺炎の基本

肺は吸い込んだ空気に含まれる酸素を血液に取り込み、二酸化炭素を排出する重要な臓器です。肺の中には酸素と二酸化炭素の交換が行われる小さな袋、「肺胞」があります。
間質性肺炎はこの肺胞を取り囲むように存在する組織である「間質」に炎症や線維化(傷が治る過程で硬くなること)が起こる病気の総称です。炎症が起こると、間質の組織が厚く、硬くなり、酸素が血液中に取り込まれにくくなります。例えるなら、肺全体が硬い風船のようになってしまい、スムーズな呼吸ができなくなってしまう状態です。間質性肺炎の原因としては特発性の他、薬剤性、そして膠原病関連などがあります。

間質性肺炎

 

発症時期とリスク因子

間質性肺炎は関節リウマチと同時に発症することもあれば、関節リウマチの診断から数年経ってから発症することもあります。特に以下のような方は、関節リウマチに伴う間質性肺炎の発症リスクが高いことが知られています。

  1. 男性
  2. 高齢(60歳以上)
  3. 喫煙歴
  4. 血液検査で抗CCP抗体やリウマトイド因子が高値
  5. 関節リウマチの高疾患活動性

 

間質性肺炎を見逃さないために

早期発見のサインと検査

関節リウマチに伴う間質性肺炎は、早期に発見し適切な対応をすることが非常に重要です。初期には自覚症状がないこともありますが、以下のような変化に気づいたら、必ず主治医に相談してください。

〈見逃せないサイン〉
●労作時の息切れ:階段を上る、早足で歩くなど、体を動かした時に以前より息苦しくなる。
●乾いた咳(痰の出ない咳):特に風邪ではないのに、なかなか治らない咳が続く。

〈診断のための検査〉
リウマチ専門医は、間質性肺炎の合併を疑った場合、以下の検査などを検討します。

  1. 胸部X線検査(レントゲン):肺の異常な陰影がないかを確認します。
  2. 高分解能CT(HRCT):現在の診断において最も重要な画像検査です。肺の間質の詳しい状態、特に線維化の有無やパターンを評価します。
  3. 呼吸機能検査:肺の容積や、酸素を取り込む能力(拡散能)を測定し、機能的な障害の程度を調べます。

 

抗リウマチ薬と間質性肺炎
知っておきたい薬剤との関連性

間質性肺炎の進行を抑えるためには、関節リウマチの活動性をしっかりコントロールすることが重要です。このため、関節リウマチの治療薬である抗リウマチ薬は不可欠ですが、一部の薬剤は別のメカニズムで間質性肺炎(薬剤性肺炎)を引き起こす可能性があることにも注意が必要です。

特に注意が必要な薬剤:メトトレキサート

現在、関節リウマチ治療の中心的な役割を担っているメトトレキサートは、まれに薬剤性肺炎を引き起こすことが知られています(メトトレキサート肺炎)。投与開始後比較的早期(数週間~数年)で発症することが多いとされています。メトトレキサート肺炎が疑われた場合には、メトトレキサートを中止し、必要に応じてステロイドでの治療を行います。
しかし近年メトトレキサートは関節リウマチの疾患活動性を抑制することで、結果として関節リウマチ自体による間質性肺炎の発症や進行を抑える可能性も報告されています。このため、メトトレキサートの使用は、患者さんの肺の状態(間質性肺炎の有無や程度)やリスク因子を考慮し、専門医が慎重に判断します。

生物学的製剤やその他の抗リウマチ薬

生物学的製剤やその他の免疫抑制薬についても、使用中に感染症や薬剤性肺炎のリスクがないわけではありませんが、その多くは関節リウマチの疾患活動性を低下させることで、結果的に間質性肺炎の進行を抑制する効果が期待されています。特に、既存の間質性肺炎がある患者さんに対しては、肺の病態を悪化させにくい薬剤が選択される傾向にあります。

 

日常生活の注意点
患者さんに心がけてほしいこと

1.定期的なチェック
自覚症状がなくても、定期的にリウマチ専門医の診察を受け、必要に応じて胸部レントゲンやCT検査を受けましょう。

2.禁煙
喫煙は間質性肺炎を悪化させる最大の要因の一つです。喫煙している方は必ず禁煙しましょう。

3.感染症の予防・対策
呼吸器感染症は間質性肺炎を悪化させるきっかけになります。予防接種(インフルエンザ、肺炎球菌など)を積極的に受けましょう。

 

おわりに

間質性肺炎は治癒することのない疾患のため、進行を遅らせることが重要になります。そのため患者さんが自身の体調を管理し、禁煙や予防接種など悪化させないための行動が大切になってきます。不安な点があれば、いつでも主治医に相談してください。

岡山市立市民病院 膠原病・リウマチ内科 医師 片山 祐

 

参考文献

  • 1. 日本呼吸器学会・日本リウマチ学会合同 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2025作成委員会. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針2025. メディカルレビュー社
  • 2. Juge PA, Lee JS, Lau J, et al. Methotrexate and rheumatoid arthritis associated interstitial lung disease. Eur Respir J. 2021;57(2):2000337.

 

お話をお伺いしたのは・・・
岡山市立市民病院 膠原病・リウマチ内科 医師 片山 祐

 

市民病院で20年以上にわたり行ってきたリウマチ教室。新型コロナウイルスの影響により、2020年7月よりWeb版・瓦版(院内での資料配布および掲示)と形態を変え、皆様のリウマチ療養にお役立ていただくべく、引き続き情報を発信しております。

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